翻刻
あたりにそこばくのしるべ又中村呈鴉なとも
訪ふに皆事ゆえなしこゝより家に帰んとするに
不図(ハカラズ)懐旧の志をなすそも〳〵愚夫その
むかし《ルビ:ちゝうへ|大人》に譲られし家を空しく
打|僵(タフ)せし身の幸ひにこたひの難にも潰されさるは
おのづから天性のなす所とは思へどまた
幽冥に在(イマ)す家祖大人(カソウシ)の廃給はで身に添ふ陰(カゲ)と
守らひて扶け給ひしにかと思へばいと
限りなく尊しされは先 ̄キつ日吾祀るべき
墓どころのくつがへりしを発し立へく
思ひしかど老の力におよばすして心にもあらで
帰りしがさらては道に背きたるすぢなれは
こゝよりかの寺へふたゝびまうでゝ在あふ人を
雇ひて墓じるしを起し立てつゝ櫁つみて
奉り額(ヌカ)つきをへて帰るさ此寺に田喜庵護物の
墓在りしかは其ついでに起し立てかの雇人に
銭あたへて聊老婆心をなすこの護物とはむつみ
受りし事もなけれと予も常に誹諧を好むの