翻刻
われ侍り其うへ邯鄲(カンタン)の枕(マクラ)の夢といふ事
古(イニシヘ)より云伝謡(イヒツタヘウタヒ)なんどにもこれあり委敷(クワシク)
其謂(ソノイワレ)を聞ん
対曰|夢(ユメ)といふ物は皆是(ミナコレ)臓腑(ザウフ)の虚弱(キヨシヤク)と
知るへし周礼(シユライ)には正夢(セイム)噩夢(カクム)悟夢(ゴム)喜夢(キム)
懼夢(クム)とて夢(ユメ)に品科(シナ〳〵)有事をいへり凡(ヲヨソ)人の
夢といふ物は気(キ)より夢見かあり又臓(ザウ)より
夢見る事あり気(キ)より夢見るといふは
人 眠(ネムラ)ざる時は形開(カタチヒラ)いて志(ココロザシ)外(ホカ)に接(マジハ)り出る
なり眠(ネムル)時は形閉(カタチトヂ)て其気(ソノキ)内に専(モツハラ)也 仮令(タトヘ)は
昼眠(ヒルネムラ)ざる時は山水(サンスイ)を見れは志(ココロザシ)開(ヒラ)けて其 気(キ)
山水に交(マジハル)也|眠(ネムル)時は其見たる所の形(カタチ)閉(トジ)山水に
交(マジハ)りたる気|内心(ナイシン)に帰(カヘ)り専(モツハラ)なる時|昼(ヒル)見
たる事或は聞たる事を夢に見る也|殷(イン)の
武丁(ブテイ)の常(ツネ)に良弼(リヤウヒツ)の臣(シン)を得(ヱ)ん事をおもひ
給ふ故(ユヘ)に夢(ユメ)に依(ヨツ)て傅説(フヱツ)を得(エ)給へり