翻刻
よりてかやうの夢を見たり予(ワレ)に於(ヲイ)て
廬生(ロセイ)を道人(ダウニン)といふ事を得ず
又問|昔(ムカシ)一人の民(タミ)其母(ソノハヽ)の死(シナ)んとする時(トキ)に
臨(ノゾミ)ていわく死(シ)して地獄極楽(ヂゴクゴクラク)といふ事
誠(マコト)にありや夢に来りて告(ツゲ)てたべと
云しかば母|諾(ダク)して死(ジ)ぬ其後両月すぎて
彼母(カノハヽ)夢中に来りて成程(ナルホト)地獄極楽あり
恐(ヲソル)へしと云かとおもへば夢(ユメ)さめぬ彼民(カノタミ)是(コレ)
より仏道(ブツダウ)にいりて偏(ヒトヘ)に行(ヲコナ)ひすまし
たりといふ是いか成事にや
対云是もおもふ事を夢(ユメ)に見たる也
人|一度(ヒトタヒ)魂散(マナシヒサン)じて何ぞ二|度(タヒ)来(キタ)るべき
人として親(ヲヤ)の臨終(リンジウ)には哀痛惻怛(アイツウソクタツ)の
心|深(フカク)何とてさやうの事を頼(タノ)まるべき
然るにさやうの事を心やすくいふ程
の無道人(ブダウニン)迷(マヨ)ひたる人には又それ程の