翻刻
一 其砌同人物かたりのついてに或人今度島原にて寄衆油断故
城中より認【「忍」誤写】出て竹束柵の木など取られ候よし被申候へは昔僉議
には寄衆竹束柵の木なと取れ候へは一段手柄の様に申候つる其
謂は城中ゟ出候ニ城際近き所の竹束ならでは取らぬもの也近キを
のり越して跡なるは取らぬもの也仕寄の近き処にとられ候とて
一段誉候由申候へは満座【「尤」落】の由申候とつる也
一 同時城中ゟ夜打出て黒田右衛門佐先手の者多く打れ其上柵の
木二重迄破り強く働き候右衛門佐先手のもの共取合働き敵多ク
打候由或人語り候へは又或人被申候は城攻仕寄の衆城中より夜打
に出候へとねかふは少此道心得たるものは誰も知る事也それは先
手のもの共油断して味方大勢打せ柵二重破られ先勢敗軍
して一手二手破られて其後敵を打取たり共何の手柄かあら
んと被申候へ掃部殿夫ゟも不審は夜打の人数時刻あしく寅の
刻ニ夜打に出て夜明方に城中へ引取候ニ付入ニせぬ事はよきもの無キ
と思ふと宣ふ各尤と被申つる也
《割書:夜討ノ|コト》【上段に朱書】
一 同時に夜打の者共引取際に鍋嶋手へかゝり夜打帰りさまに働き仕
寄の井楼矢倉ニ火を懸て城中へ引取候と申候へは功者敵も事
外不鍛錬也味方も同事也まつ夜打は暗きを本とする事
敵ニ多少を見せぬやうニ大勢の様ニはからん為也又付入に城
をのられぬ為なり【る」誤写】に読ず書ずの寄合也味方も敵に井
楼焼れ油断のみならずあかりを力に付入にせぬ事武辺知
ぬ故と各笑き
一 同時夜打の者共の語候とて立花細川手寄へ夜打討候はん
か相手かましきとて不打とかたりき其時右両人のみ贔屓と
現代語訳
一 その折、同人が物語のついでに、ある人が「今度島原にて寄せ手が油断したため、城中より忍び出て竹束や柵の木などを取られた」と申されると、「昔の軍議では、寄せ手の竹束や柵の木などが取られると、一段と手柄のように申したものだった。その理由は、城中から出てくるのに、城際近くの所の竹束でなければ取らないものである。近いところを乗り越えて後方のものは取らないものである。寄せ場の近い処に取られたといって、一段と誉めた」と申されると、満座もっともだと申したということである。
一 同時に城中から夜討ちに出て、黒田右衛門佐の先手の者が多く討たれ、その上柵の木二重まで破られて激しく働いた。右衛門佐の先手の者どもが取り合って働き、敵を多く討ったと、ある人が語ったところ、また別のある人が申すには、「城攻めで寄せ手が城中より夜討ちに出られることを願うのは少々この道を心得た者は誰でも知ることである。それは先手の者どもが油断して味方の大勢を討たせ、柵二重を破られ、先勢が敗軍して一手二手破られて、その後敵を討ち取ったとしても何の手柄があろうか」と申されると、掃部殿もそれより不審なのは「夜討ちの人数や時刻が悪く、寅の刻に夜討ちに出て夜明け方に城中へ引き取ったので、付け入る隙を与えないことは良いものがない」と思うと仰った。各々もっともだと申したということである。
《夜討ちのこと》
一 同時に夜討ちの者どもが引き取る際に鍋島勢にかかり、夜討ち帰りがけに働いて寄せ場の井楼や矢倉に火をかけて城中へ引き取ったと申すと、「功者な敵も事の外不鍛錬である。味方も同じことである。まず夜討ちは暗きを本とすることで、敵に多少を見せないよう大勢のように計らうためである。また付け入られて城を乗られないためである。読みも書きもしない寄り合いである。味方も敵に井楼を焼かれ、油断のみならず明かりを頼りに付け入る隙を与えないのは武辺を知らぬ故である」と各々笑った。
一 同時に夜討ちの者どもが語ったとして、「立花・細川の手の寄せ場へ夜討ちを討ちかけようか、相手が手強いとして討たなかった」と語った。その時右両人のみ贔屓と