翻刻
一 昨夜作エ門宅にて泊候處此家は是迄名主も勤め村にての大家に御座候然る處
此度の地震に潰残り候得共柱折壁落傾きたる斗にて大工大勢掛り漸に
三日跡に起し返し昨日畳敷込ける斗也昨日は廿四日大地震の日にも当り大
家故猶以て安心ならずと申殊に昨夜は暑く候間夜中起縁側へ出空の
様子を見候處どんどりと致して空低く見え候えば猶々気味悪く最
夫迄地震の前は兎角気をとじたる様にて風も無く空どんどりと致
曇もせづ晴もせず蒸暑く成て震出し候人の咄にも有様に付扨こそ
今夜は油断ならずと存じ夫より外へ出空の様子四方を見詰候處其
内曇りも薄く掛りたり又厚く掛りたり色々に動き出し風を起し庭の
木の葉を吹散し風の勢大に強く相成候間是ては大【間の右に丈】夫と思ひ内へ入寝
候是迄右様【間の右にの】時風出候えば地震無之間安心致し候
右文中昨夜とあるは弘化四年五月廿四日の夜を云也
一 天候に據る地震前兆 以下早川孝太郎氏の地震前兆雑記
一 地震前は天候順気に比して蒸暖いこと
一 次には多くの場合天色朦朧として低く又天色淡くして近く見ゆる
一 星辰明かにして|昴(すはる)(夏秋の候南東の空に数個の星集団をなして恰も
陰滅する如く見ゆる星)殊に鮮明に輝くと【間の右に抔】いひます
一 地震の前後気温の変調なる事は有様に思はれます去り迚地震無わ【右を消し、左の〇を残したヵ】共時な
らぬに暑かつたり寒い事は幾等もあります
一 其他の例迚も同じ事で幾許の程度を云つたものか判断し兼ます
安政の地震の折は当時記されたとのに依りますと地震前の九月末から気候時
ならず温かく昼間は多く雨を催し夜間は之に反して晴渡つて吹く風も極