翻刻
静てあつたと云ひます当日の十月二日は朝の間小雨有て後晴れ夜に入ては空
朧?に曇つて恰も春の夜の如く初時雨の訪れる頃とは思はれぬ暖かく静
な夜であつたと謂ひます
一 安政より以前弘化四年二月信濃【右に大】地震ありし|事(時)は気温暖なるに加へて前夜
より星の光り常に倍して明かに輝き渡り昴中にある糠星さへ一々鮮明
に望まれたと実験者の語があります
一 又明治廿四年十月廿八日濃美大地震の折は地震前正午の測定で華氏七
十八度午後五時にて七十度平常に比し十度内外の高温であつたとあります
而して震前は例年に比し稀に見る晴天続きで前日廿七日午後より曇
天を見俄に暖気を加へたとあります
一 地上に棲む動物は地震に対して敏感と云ひます中にも象は最も早く感じ
て叫ぶと云ひ雉子も早く感しるといひます安政の地震当夜武蔵野で雉子
が啼き騒ぐといひます
一 弘化四年信州地震の前にも雉子が頻りに啼たといひ烏鳶等も常ならぬ叫
を揚げて異変の来る事を思はせたとありますが鳶や烏の騒ぐ事を
余り聞きませぬ
一 地震の前兆として井水事も無きに枯渇するといひ又濁るとも云ひます磁
針は力を失ひ磁石鉄を吸着せず海潮も遠く退くと云ひます
一 ロンドン大地震の前にはテームス河に無数の魚類が死んで浮上つたといひ
伊太利にては地震前驢馬狂奔し馬驚き走り雉子啼き死鼠数
多路上に横つたと聞きます
一 日本では火事の前には鼠か豫知して退散するといふ伝説があります