翻刻
が地震にも同じ事を云ひます
一 魚類ては鯰が最も早く地震を感するといひます又地震は地中を司る大
なる鯰の怒るとき発するもの故彼等が早く知るとさへ云ひます地震と
云へば鯰を連想し又地震の神様となつて居ます
一 安政地震以後震災豫防の呪が流行した様ですが鯰の絵を壁に貼つて
祭つたのがあります白紙に哥を記して所持する方法も行はれました其哥
の一つに次の様なのがあります
水神の教へに命助かりて六分の内に入るぞうれしき
抔があります水神は即ち鯰で鯰の教で大切な命を助かつて生き残つた部
に在る事が出来るといふ意味らしく思はれます
一 かうした呪抔は当時出た次のやうな物語から段々流行したかと思はれま
す
一 安政地震の折の事本所永倉町に住む篠崎某の男日常より漁を好み夜
々川に出て魚を捕るを楽みとせしが地震のありし当夜も例に依つて隅田川
に出て珠数子といふものにて鰻を捕らんとするに(此方法は燈火を照して鰻
を捕るもの故水中能く見ゆる)其夜に限り川に在る鯰いたく騒き立て切
角集まつた鰻も驚いて遁出す始末で一尾も釣れず而かも鯰三尾を釣て
家に帰り考へれば不審でならず昔からの云伝に鯰騒ぐ時は地震といふ
を思ひ出し若しやと思つて家財を庭に運出すと此体を見たる女房が気
狂の様だと笑つたが果して大地震あり居宅は為に潰されたが幸ひ家財
と吾身は無事なるを得たといひます之に反して隣家の男は同じ様に釣に
行き鯰の騒ぐを見ても此理を悟らすに居た為家財は全部砕かれて