翻刻
と響き渡りて大なるなゐ震出たりされば家の大小をいはずゆり
うごく事風恙なき日船にて海をわたるかごとく塁の上さへ歩
みかねたりとみにもふるひやまずして家のなる音いはん方なく
恐しければ皆一とまとゐまとゐして或ハ打臥なとしてあるに
燈火をさへゆり消し又倒などしければ女童は泣まどひた
だ神仏の御名を唱ふるより外なし漸く明かた近くなりて
少し穏しく成ぬるにぞ人々生出る心地セしに又強く震など
しも朝の五ツ時迄におよそ三十五六度に及べりあくる十五日
もきのふに替らず空晴たりしかど猶ふるひやまずして暮る
まで長短強弱はあれど十五六度に及ひぬ抑此浪花になゐの
うれひかく数多く時を移すこと昔より聞もつたへず宝永
四年十月四日地震津浪一度に来りて家倒れ橋落人多く死セ
しよしを恐しき例にいへどたゞ一度ゆりしのみにて穏しく成
たり又文政二年六月十二日未の時のを其節古稀以上の老人だ
に志らずといひし程の大地震なれば家毎の石燈篭倒れ
住吉社のもいたくそこなはれたりしかどそれハた【(だ脱カ)と添え字あり】二度ゆりし
にて其余は同三年七月二日未時二度計り強く震ひしかど石
燈篭の倒れし事はなし此地震都ハいと強く堂社の
倒れしもあり在家も潰れ傾き怪我セし人も多く冬に
至りて全くは納りしこれハしたしく見聞しかばかく都にては
強かりしも茲にてハたゞ二度のみなれば地震といへば外に逃出
へき事とハ露心付ずして地震戸《割書:観音開、或ハ|開戸の類》を設けし家とては