翻刻
広き市中に数ふる程也よしや其設ありとてもかく建込たる
市中にては外へ出たりとも恙なしとも定めかたしされば
かく強くある日とてもゆりやまねば此末いかに成行らんと驚き
まどひ十五日の夜は船にて大川にうかひぬる人多しされば屋根
船は本より上荷茶船あやしの網【右に網と楷書】船或ハ三十石天道抔いへる
をさへかりて心うきうきぬをなし又ハ過し年《割書:嘉永五|子年》の火に逢
て未タ家を造らぬ広き場に塁【畳ヵ】板戸を持出し明かしぬるもあ
わていと騒々しき事共也家毎のぬり篭の壁にひゞき【右に(れカ)と添じ】の入
さるはなく軒の妻のくだけたるも有灯【右に(石脱カ)の添字】篭ハ家毎に皆倒
れたりとぞ西横堀なる瀬戸物店店物大かた打破たりは
し〴〵には倒れ傾きし家もありといへば怪我セし人もなき
には非るべし十五日暮ちかく成ての三度ハ余程強かりしかど
夜に入ては子の刻【右に過】まで音せねば最早是までぞと思ひしに
同じ時過る頃より又震出て明はなるゝ迄に十度余りに及ぬ
夕へより雨いさゝか降しかど明はてゝやみぬ
十六日陰晴不定
朝より暮るゝ迄に大小あれども七度斗震ふ其内朝の二度
強くして隣家の塀の土落たりこは此程よりゆるみありしゆへ
なるべし夜に入て震ひしかはしらねど夫と思ひはなかりし
十七日けふも晴陰りて折々小雨降る
昼之内六度斗り夜に入て二度斗りは至而軽かりしけふ未の時頃
より西南の風烈しく吹出たり夜に入て丑之刻より雨さへまじり