翻刻
同六日晴江尻之沙汰を聞に一軒も残らす焼亡駅中の巴橋落ちて
通行とゝまるよし清水の港もこと〴〵く潰れ失火又は津波にて
死亡五百人斗りもあるよし江尻定宿なる大竹屋も家内七人暮しなるに
息子壱人助りし斗りにて六人とも焼死せりといふ其余の死亡人は数し
れず中々人馬とも通行は出来ぬよし己之時頃より御城前を西へぬけ
浅間の宮へ参詣せしにそのあたりの人家悉く潰れぬれど本社を始め
神楽殿絵馬堂矢大臣門に至る迄傾きたる【所と添え字】もなく石の鳥居迄も
無難なれども迷木石少し口あきたれば人止の縄を引わたしあり
只社内に数石基建つらねたる石の夜燈皆微塵になりたるを見
る
神慮心根に徹しありがたし夫より安倍川辺を見んとて宮崎
町より魚町辺りへかゝれば四隅之家倒れあひて四方へ道なく屋
根の上を通り水をわたり漸に安倍川に至りて見れば川水は
泥の如く一昨日越時よりは水嵩倍せり川原は五尺斗づゝも地
幾筋もさけ小石崩れ込たれは水のかれし川の如く三尺斗りも
低くなりたり四日に立よらんとせし餅屋も悉く潰れ居れば
誠に危き命をたすかりぬすべて上方筋之駅々もおなじ地震にて失火
せしにや旅人躰のものハ壱人も来らず府中への入口の松並木なども七八
寸づゝより壱尺位迄地裂け深さ三四尺もあり其辺を通行するに
今にもゆるぐやうにおもひ足早に立さりぬ非人抔ハ飢につかれ土
手に倒れうめく聲哀に聞へ犬も食物なく狼の如く痩て見
るかげもなし帰路川越町を通りしに家々に飼おける小鳥を籠