翻刻
者も薬もなしあはれ貯の薬あらはたまはるべしと涙なからに頼
みけれども更に用意の薬なけれバ気の毒なから断れば又
泣叫びて北の方さして走りゆきぬ定めし長嶋氏へ手習に道ハし
置きたるなるべしいかゞなりしやおぼつかなし是れ迄旅行の
節に薬の用意せざりしが此度後悔しぬ磯田ハ高須氏ニ居
て用意の蝋燭つけ木抔出し調|方(法)せしとぞ伊勢木より昼支度と
してたゝみ鰯大根漬夕食より七日朝迄とて取蒲鉾菜の煮〆
らつきよ抔おくる食物たりぬれば心丈夫に覚ゆ予通りへ出て見
るに旅人躰の男三人連にてやけ銭を壱貫文許手拭に包み
持行故呼止仔細を聞に越中富山の薬売にて品川屋といふ
宿屋【取消て家に】泊り近在へ商ひに出し跡にて焼亡にあひ荷物みな焼亡【取消て失】
ひ誠に着のみ着之儘にて帰国せんにも綿入の一ツ宛も【右にも脱カ】とめねば寒
さ凌ぎかたけれども買ふべき所もなきゆへ方々尋ありくといふ銭
七貫文斗宿へ預け置きしに漸此位焼跡にてひろひ出したりといふ
をきくに我々は仕合なりと少しは心をけふも一昼夜にては三十度
も震ひぬ
同七日晴暖気 丸子宿問屋当所七軒町高札場へ出張人馬継立る
るよし承るにより直様参り様子を尋るにいまだ御用之荷物
人足持なども上下とも来らず下りの方も箱根辺迄は通路む
つかしきよし当所を継立ても江尻橋落たれば通行出来がたし
今暫く見合すべきよし申せば詮方なく立帰り当所焼跡を
見にゆく漸く今日は本道も通行出来るやうになりて東の出