翻刻
夜四時頃江戸の方より盗賊らしき者五十人斗りも入込しゆえ出
し置たる家財早く手近へはこぶへしといひて又俄にさわぎたつ
同八日曇雨ふるべき気色なれば諸人道具をぬらさじと用意せ
しに午時頃より又晴わたりて暖気になりぬ今日も丸子出張所へ行
て尋るに只今遠州中泉御役所より御城内へ火急の御用物
見付駅より通し人足にて持来り候人の噺に掛川より岡部迄
も都て大荒のよし継立は決してなきとの事なり侍壱人供二人
に両掛を一荷づゝかつかせ通行故関東の様子を尋しに地震の
時江戸を出立いたせしに箱根迄はさしたる事もなし箱根畑宿
より段々あれ強く駅ニ継立もなく候故両掛を供にもたせ夜通
しに爰まで参り候支度なども時々にはとゝのひかね候得者猶
行先も心元なく候と被申て別れぬ伊勢木より昼夕飯の料
の飯|奥(興カ)津鯛塩焼蕪漬を贈る此辺の噺に紺屋町に婦人子を
おひて白の木綿糸を持なから焼死居たり定めて近在より紺
屋に染に来りしならん住所しれねばいまた菰に巻てあるよしいたは
しき事也未時頃長屋庄右衛門を尋ねゆきて面会す是も伊勢殿
棟木折て南の方へ傾きたれども早速に起すべき日雇もなく出入の者
もおの〳〵居宅潰れたれば詮方なくいまだ其儘に捨有との事也其
後は向なる大谷屋といへる家の裏に小家掛して住居するよし咄也
互に無難を祝して此所を立出て夫より高須氏へ磯田を尋ね行しに
我々が方へゆきしとて留守なれば逢はず一禮を述て帰りしに磯田
は予が小家にて待ち居ければ面会す磯田か云く高須氏もあまり