翻刻
と悦ひぬ未時頃長尾入来咄しに三丁目に湯屋ありしがたちまち潰
たれば失火心元なく近隣の者かけつけ火を消さんとするに仕合
に湯舩割たれば火は跡なく消たりとぞ其時湯に入合せしものは着
類も其儘捨置赤裸にて男女とも逃帰りしとぞ伊勢本ゟ昼夕
飯の用意とて大根漬添来る夜に入大風寒し今夜両度震動其後
はしらず
一同十一日曇大西風寒辰刻三度斗も震動伊勢本も類焼之事なれば
あまりの長逗留に日々食物運びもらいしも気之毒におもひければ
この家へ談しければ今朝よりの食事は出来合の物にても逗留中の
致しくれむとの事なれば伊勢本へは断申遺し一方安心新通一丁
目に西野屋清助といへる呉服商売の家あり此清助といへるは
養子なりしが先日ゟ養父大病にて九死一生故万一の用意米三俵
搗せ置けるがはからす彼地震に漸く病人をつり出し直に家は
潰れたり仕合せに病人もさして障りになりたる様子も見えねば
貯への米を四五升づゝ難儀なる者に施しければ其仁心を感して
自分の家にはかまはず取片付けの手傳に来れば日雇壱人もなしに
五日昼時迄に残らず取片付ぬ是は両徳之法にて驂府中の事な
れば日雇金銭にては調ひかたく今十一日になりても其儘に捨ある
家過半なり西野屋のはからひ誠に感心しぬ夜に入震動
一十二日晴暖気伊勢本ゟ使来る最早一両日の中には馬継立も有
べし若継立になりたれば一番に馬入べきを申置て帰りぬ午時頃
両替町の濱村屋といへる質屋の土蔵震動せざるに崩れぬ取