翻刻
暇乞に出行巳上刻漸馬来りければ附させ出足呉服町六丁目に假問屋
出来たり是迄逗留になりたる登り下りの馬荷物山の如くなりて殊
の外混雑なり江尻迄の村々は三分過も潰れ居たり江尻駅の出
火もあり府中に倍せり巴橋舟渡にて彼是手間取内雨降出し
漸〻川を越問屋場へ至るに假小家も出来ねば継立もなく買上に
して附出しぬ須賀村より清見寺門前辺はさしたる事なし奥
津入口に来れば宿引の大勢群り居け【たを取消】り思ふに府中江尻辺は
泊るべき宿一軒もなきに三四里来れば宿引のつきたるは誠に心丈
夫になりたりなどいひて清水屋に泊る夜に入りたれば倍大風雨此
家の下女の咄に地震の時は津浪を恐れて各裏の山へ逃たり
其時老人夫婦娘をつれて山へ逃しに俄に山崩れ三人ともうた
れ死しけり婆〻と娘は死骸堀したれども親父は如何なりしや知れじ【ずを取消】
との事也西東平此家へ手紙を残し置たれば披見するに四日は江
尻駅大竹屋前にて既に命を失ふべき所やう〳〵に助かり当家
の裏薮にて七日迄夜を明し八日朝無事此所出足との事なれば安
心しぬ今夜は震動せしや邂逅に歩行せし故草臥てふしたれば
しらず
一同十七日晴奥津駅も東の出はつれは多分潰れたり薩埵坂倉
沢邊は無難なれども浪の音常にかはりて山へ響き今にも津浪
来るべきやうに思へば恐しく足早に過きぬ由井の宿はさしたる
事なけれども是も東の沢はづれは倒れ家多し蒲原宿は問
屋場より南へ壱丁半斗りも焼亡前後の家は悉く潰れて