翻刻
目もあてられぬ事也奥津宿の馬士の咄に清水之港にて出家と犬と
一所に潰され僧は九死一生になりたり犬はさして痛める所もな
けれバとも【バともは、どもの誤記ヵ】空腹に絶えず出家の足を其儘喰ふを【見てを抹消】まのあ
たり見て恐敷思ひ逃かへりしとぞ蒲原駅を出はづれ近年
新道開けし富士見茶屋の邊は地五六寸宛も裂たる所あ
り中の郷邊に至れバ六尺余も地裂けて低くなり往還堀
の如くなりて恐し岩淵の立場は悉く潰れ身延追分の所
などは三丈余もある石積も不残崩れ家も共に下へこけ落な
どして見るもいたはしき事也甲州も山崩れて富士川の水堰
二三日は富士川歩行渉り出来しとぞ今は元之如くなりたれ
と川幅は不断ゟ広く成たり元市場辺も将棊倒しの如くな
りたり此所へ来れバ西東平荷物心元なしとて森井保助小|方(者カ)壱人
藤沢より迎来り候程能行合互に是迄の咄抔して吉原駅に至
りて見れバ悉く此所も潰れ継立なけれバ馬買上んといへども人
馬ともになけれバ駅東の大阪屋といへる肴屋に泊る旅篭屋も二
三軒は商売する家はあれどもいづれも家傾きて何分心元なけれ
ば見合て此家に泊る奥津より此家迄の橋々ハ悉く落ちて假
橋なれバ馬荷物をおろし抔して所々にて難義せしなり吉原駅
の先新橋川合橋とも落たれば原駅えハ継立なきよし買上な
れば富士の裾野廻り柏原邊へ出るよし多分駄賃もかゝりけれ
ば明朝出立すこし見合べきよし問屋場へ申送し置夜に入
大風寒