翻刻
して鉱夫は鉱内に入らずといふ
《割書:明治廿四年|十月廿八日を言ふ》 一今回濃美の大地震前に予か知人の家にては飼猫戸外に出んと騒
ぐを以て戸を開きて放ち遣りたる後間もなく大劇震起り家人は
皆其口より逃れ出で難を免れたり而して飼猫は何処へか立去り
数日を経て再び帰り来れりと
《割書:安政二年十月|江戸大震》 一此二日の大地震ありてより後も屢々地震りて止むことなく其夜より翌
朝まで凡ソ四十度計りも揺りつらん翌日より日夜揺りて翌年正月
迄も揺りにけり中にも十月七日の夕方と十二日の夕方揺りしは最も強か
りけりされども日を経るまゝに力も弱く数も減り行けり其揺る度
毎に夜昼といはす鶏驚き騒ぎて時ならず啼きふためき又
鳥も啼くこと夥しかりし
一本所永倉町に篠崎某といふ人あり常に漁を好みて夜々川出でに
けり二日の夜も珠数子といふものにて鰻を取らんとて川にあさりけれと
も鯰のいたく騒ければ鰻は逃げ去りて一つも得取らず稍ありて鯰
三ツ釣りけりサテ今宵は何故にかく鯰の騒くやらん鯰の騒く時は
地震ありと聞く若さる事もや有んと家に帰り家財ども庭へ
取出しければ女房は異しき事し給ふもの哉と笑ひけるが果して地
震ありて家は破れけれども家財は損せざりけり其隣なる人も漁
を好みて其夜も川へ出て鯰の騒を見たりけれ共争でさる事あ
るべきとて釣りしつゝ有ける間に地震ひければ驚いて帰りて見る
に家も塗込【右に籠、|塗籠(ぬりごめ)】も既く破れ果て家財も皆砕にけり
一爰に二三千石を領する旗下の士人あり其れが門番に抱へたる