翻刻
なり若(もし)作用すべくんば周公(しうこう)孔子(かうし)是を為(し)なんと宣(むべ)ならずやまた
或人云|奇怪(きくわい)幻術に出るとせば聖|主(しゅ)賢王(けんわう)人民(じんみん)の為に祈(いのつ)て雨
を降(くだ)し孫臏(そんひん)孔明(こうめい)等の軍術(ぐんじゅつ)に奇(き)をあらわし且(かつ)孝子(こうし)雪(ゆき)に
筍(たけんな)をぬき氷(こほり)に鯉(こい)を得(う)るも又皆こと〳〵く偽幻(ぎげん)を伝(つたふ)るにや答(こたへ)て
云|嗚呼(あゝ)是|何(なに)の謂(いゝ)ぞや夫(それ)天は民(たみ)の心を以て心とす人主(じんしゅ)下民(かみん)
の為に旱魃(かんはつ)を愁(うれへ)て懇祈(こんき)丹心(たんしん)を天に訴(うつたふ)るに至(いたつ)ては天又其
愁(うれへ)をうれへてこれが為に甘雨(かんう)を降(くだ)す是(これ)感格(かんかく)の妙理(めうり)にして
中庸(ちうよう)に所謂(いわゆる)祭祀(さいし)来格(らいかく)と一理也|況(いわん)や至孝(しいこう)至忠(しいちう)に天感(てんかん)有
事|天人(てんにん)合一(がういつ)必然(ひつぜん)の理たり此ゆへに悪(あく)を照明(しやうめい)になす者は
人是を罪(つみ)し悪を冥暗(めいあん)になす者は天是を罰(ばつ)す恐(おそ)るべし
且(かつ)諸史(しょし)にみへて軍係(ぐんほう)を以(もつて)世に鳴(なる)の族(やから)幻法(げんほう)を行(おこな)ひしもの
少からず蚩尤(しゆう)涿鹿(たくろく)に雲(くも)を起(おこ)し孫臏(そんひん)龐涓(ほうけん)術(じゆつ)を水簾洞(すいれんどう)
の鬼谷子(きこくし)に学(まなん)で奇怪(きくわい)をなす類(るい)みなかの術也|孔明(こうめい)儒者(じゅしゃ)
の気象(きしやう)ありと程(てい) 孟宗(もうそう) 至孝天に感通し雪中に
子(し)の説(せつ)有其|東南(とうなん)の 筍(たけのこ)を得て親(しん)のもとめに
風を祈(いのり)たるごときは 応(おう)ず
先輩(せんはい)諸書(しょしょ)に論説(ろんせつ)す
又|幻術(げんじゅつ)の徒(と)にあらじ
三|国(ごく)の戦(たヽかい)に司馬(しば)仲(ちう) 王(わう)
達(だつ)を葫蘆谷(ころこく)に偽(を) 祥(しやう)
引(びき)入|已(すで)に焼死(せうし)せし 継(けい)母
めんとす俄(にわか)に雨|降(ふつ)て に仕て
懿(い)僥倖(さいわい)にして免(まぬか)る 至孝也
孔明(こうめい)嘆(たん)じて云(いわく)事を 鯉魚(りぎょ)を
斗(はか)るは人にあり事を 氷の中ゟ
なすは天(てん)にありと何ぞ 得て親(しん)に供(きやう)す