翻刻
異国暗弱之時運傾る事是顕然たり又我朝の
徳沢にて対勇秘術におゐては水月飛鳥打放す
筒先尖にして壱つとして仇なるはなく一玉を
請ては五人六人宛打殺頻りに打止飛玉に船中悉く
黒烟り忽然と立昇飾立たる船具は猶更■箇【武器の誤写ヵ】も
不残焼失いたし申の刻迄儀【義】を重し名をおしの接戦
罷在時の有様八島合戦にも勝るへき歟数百年来
寄々妙々珍事成此時軍艦には謀事も有之筒音
忽ちやみ人語に絶へたり岸之方には不審不極候得共
最早日も西山へ傾けは暫く士卒の息を休め夜軍
の用意し勝敗を決せんと普厳重備を立待もふけ
居たりしに敵戦の色に見えす慌敷芦火のかげ
見えてぞ残る夕暮に浦風迄も長閑なる春に誘は
れ指汐の月を詠して夜を過し東雲頃にも成也
否鏡【暁の誤写ヵ】鶏発して陣藩に至る暁日山の端を昇
照すれは敵船眼前に見え下し衰なるかな時烏に
違ひ日に映する軍艦も烟に染し箕【籏】もなし只燃杭
を浮めるか如し陣に取沙汰嘲を交人大方ならす
然るに今一戦もなく時刻を移すは大隅守家臣
士卒三拾余人召連何れも大切之役義なれはとて
武具を正し密事を示し敵艦近漕寄て今や
打ひしかんと時を造り名乗しは敵一声にも不及