翻刻
寂莫として空船に似たり未審なから棹を転し
纜を繋き敵船へ乗かゆれは枕ならへて討死をし
砲玉に当り着せし六具も色わからす悉烟にむせ血に
染り死る者七百七拾有余人未た保命之者拾七人
内五人有にいつれも浅手に候得と疵を蒙り必死の体
是を見るより捽者共寄合へし合日の本の神感
を顕わし取囲み手取り足とりこれはといふ間に
猿轡をはめ壱士も不残生捕にして猶見廻り改し
候処鉢に捥たる一株ありみ木枯たる如にて葉縁
蘿に似たり一輪の紅花を以梅桜を欺くほどの奇
花なり是に愛れ手に配れは忽人色を失ひ又は
惣身痿れ候ものも有時の軍艦丈ケ拾有六間余
幅八九間余にて五階に出来陣営にひとしの者候得と
時烏の砲玉に船底打破数ケ所より水込入て鶏百疋
余も焼失候迄人骸と■も船水にひたしたれは壱人も
眼を開き見るものもなし都て始末も出来捕子【=捕虜】之
もの召連帰櫓之上先陣より段々東陣へ召通之白洲
に於て厳命之下し相糺候処イギリスの軍艦にて
クハラより加勢を調し最初六艘示し合ロントンの都出
帆鬼界九島を左右に眺め日ならすして日本に入
今日の猶予もあらば珍奇を捧げ米穀古銅諸
色交易を乞御承諾もあらば面目限りなく自然