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コレクション: STAGE7

風俗畫報臨時増刊第百二十號 大海嘯被害録(下) - 翻刻

風俗畫報臨時増刊第百二十號 大海嘯被害録(下) - ページ 11

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【右頁上段】 処に至りしに赤兒の啼声(なきごえ)あり驚て之を探(さぐ)れば材木の下に一兒あ り即ち坂本万太郎の女とめなり熊谷|教員(きやうゐん)の妻之に乳を与へたる に飽(あ)くまで之を飲(の)めり人々|奇異(きゐ)の思ひを為し其|幸運(かうゝん)に驚けり然 れと父母|兄弟(きやうだい)とも溺死しければとめは親族(しんぞく)に預(あづ)けられたりと云 ふ ○遭難者の実話(じつわ)  綾里村字湊に住みし医師(いし)木下良斎は遭難者 の一人なり当時(たうじ)の実情を語(かたつ)て曰(いは)く午後八時半頃なりき大津浪(おほつなみ)よ と云ふ声を聞きしが席(せき)を起(た)つに遑(いとま)あらずして潮水(てうすゐ)は早や家屋(かおく)を 充満(じうまん)したれば目を閉ぢ口を塞(ふさ)がんとする間もなく身は家屋(かおく)と共 に山手の方向へ押寄(おしよ)せられしか二三分を経たりと思(おも)ふ頃(ころ)身体(しんたい)は 両三回|顛倒(てんとう)されしと覚ゆ今にして思(おも)へば此時こそ潮水(てうすゐ)の引際に て家屋の砕(くだ)けしものならん此時に当(あたつ)て身は是れ生き居るや死し 居れるやを知らす素(もと)より余と共に数分前(すうふんぜん)迄団欒せし妻や子の安(あん) 否(ぴ)は毫も念頭(ねんとう)に浮はさるなり漸く心付き頭(かうべ)を擡(もた)け見れは四面闇 黒にして咫尺(しせき)を弁ぜず手を伸へて四辺(あたり)を探れは材木と死屍は周 囲に充ちて身(み)は半(なか)は泥土(どろつち)の中に埋れるものゝ如けれど物音(ものおと)の更 に聞ゆるなかりしかば試(こゝろみ)に指を耳に入れしに泥土は耳腔(じこう)を填め 居るを以て之を掻出(かきいだ)せしに忽ち処々に泣叫(なきさけ)ひつゝ助けを求るの 声を聞き始(はじ)めて其万死の中に一生を得たるを悟(さと)れりされど尚ほ 妻子(さいし)の事は心付かさるなり斯くて数分(すうふん)を経し後ち無数の灯光(とうくわう)は 山畑に点々し叫喚(きうくわん)の声は益々聞へ身も亦た傷(きず)を負(お)はざるを知り しかど海嘯の再ひ来らんことの恐(おそ)ろしさに他を顧(かへり)みるの遑(いとま)なく 丘上(きうじやう)に這上れり翌朝検すれば可愛(かあゆ)き妻可憐なる兒は家と共に影(かげ) も形も見ゑずなれりと尚同人の家族として残れるものは東京に ありて独逸(どいつ)協会に入り居れる長男あるのみなりと ○幸か不幸か  盛村の少(すこ)し離(はな)れたる綾里の一村に俗(ぞく)に舘脇家(たてわきや) と云へるもの数軒(すけん)あり何れも旧家(きうか)にて可なりの財産家なる由な 【右頁下段】 れども此度(このたび)の海嘯に一家一人も残さす流亡(りうぼう)したる中に天幸(てんかう)なる は其内(そのうち)の一戸主は東京へ所用(しよゝう)の為め出がけ居りて海嘯を免(まぬが)れ一 村にて只一人残りし次第(しだい)なれど是れとても着のみ着のまゝ|財産(ざいさん) 一つなき身となりたる事なれば此先(このさき)の方法(はうほふ)に困り居ると云へり    ●越喜来村 ○地中より古金銀を発掘(はつくつ)す  越喜来村崎浜に南部屋なる者あ り財産(ざいさん)殆ど五十万円と称す昨年該村に大火(たいくわ)あり南部屋の倉庫(そうこ)亦 た将に災(さい)にかゝらんとす主人里人に伝(つた)へしめて曰く汝等|協力(けふりょく)し て我が倉庫を全(まつた)ふせは全村仮令ひ烏有(ういう)に帰するも後悉く之を再 築し与ふべしと里人即ち全力(ぜんりょく)を注(そゝ)ぎて該倉庫を守(まも)る因て全きを 得たり災止むの後|類焼(るゐせう)の家屋を悉く再築し与へ又己れの本宅(ほんたく)を 新築す工事数月を費(つひや)し六月十四日|初(はじ)めて成を告く壮宏|輪奐(りんくわん)鄰閭 第一たり翌日海嘯至り倉庫家屋悉く流失(りうしつ)す倉庫内蔵する所廿一 万円入金庫 (古金銀)十万円入桐箱 (大黒札十万円武内宿祢札三 万円)其他|古書画(こしょぐわ)の最も高貴(かうき)なる者等頗る多し災害(さいがい)の翌日主人 此|構内(かうない)に縄張(なわばり)を打ち里人を集め倉庫及古金銀の散乱(さんらん)せし者を捜 索せしに南部屋の門前(もんぜん)一溝あり幅(はゞ)三尺深さ四尺有余なりし者海 嘯の為めに埋没(まいぼつ)す工夫鍬を以て該溝を発掘(はつくつ)し居る中五匁三分、 三匁三分、三匁の小判(こばん)其他二朱金一分銀等十数個を発見(はつけん)せり是 れ皆|箪笥(たんす)、箱等に蔵(かく)し置きし者なりといふ二十一万円入の金庫(きんこ) は今に発見せす主人は五十円の賞(しやう)を懸(か)けて捜索(さうさく)し居れりと ○同村白浜  湊と山を距てゝ越喜来湾の南岸(なんがん)にあり此|地(ち)潮水(てうすゐ) の激(げき)せし事(こと)尤(もつと)も甚しく殆ど七八丈の高(たか)さに及(およ)べり潮の走(はし)りし所 一帯線を画して其以下は草木(さうもく)悉く枯槁し岸(きし)に聳つ岩石悉く土砂 を洗(あら)ひ去(さ)りて研々(けん〳〵)たり小屋四戸高丘に残(のこ)り他(た)の二十九は悉く波 底に没(ぼつ)せり死(し)する者(もの)百七十五|人(にん)実(じつ)は全人口の三分の二強に当(あた)る    ●松ヶ崎村 【左頁挿絵二枚】 【上題】 小友村の人漂着の死体を争ふの図 【下題】 大谷郵便局長遭難の図