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コレクション: STAGE7

風俗畫報臨時増刊第百二十號 大海嘯被害録(下) - 翻刻

風俗畫報臨時増刊第百二十號 大海嘯被害録(下) - ページ 13

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【右頁上段】 して地上(ちじやう)を見れば海嘯(つなみ)襲来の痕跡|最早(もは)や争はれず所々に魚鱗(ぎょりん)の 溌剌(はつらつ)として地上に躍(と)べるものあるより三|人(にん)の下男は心を奪(うば)はれ 「や旦那様|明日(あす)はこりや好(よ)い肴で一|杯(ぱい)飲めます」とて地上(ちじやう)の肴を 拾(ひろ)ひ集つめつ余念(よねん)なし 琢治は心|急(いそ)ぐまゝ三|人(にん)の下男を叱(しか)り飛ばしつ海浜(かいひん)さして急ぐ事(こと) 一|町許(ちやうばか)り号泣悲鳴の声(こゑ)闇に徹して凄(すさ)まじく逡巡する下男(げなん)を励(はげ)ま し声(こゑ)を知るべに辿(たど)り行けば或は老媼(らうおう)の潮水にむせびて早(は)や虫の 息気(いき)なるあり或は若著(わかもの)の壊材に打(う)ち敷かれて起(お)きんとすれど深(ふか) 傷(で)の痛みに力弱りて唯(たゞ)苦(くる)しげに唸るあり千|態(たい)万状深浅|軽重(けいちやう)の差 別はあれど皆(みな)一|様(やう)に半死半生の体(たい)となつて算(さん)木を乱し倒れ居(を)る より琢治は恰(あたか)も狂気の如く三|人(にん)の下男(げなん)を指揮して此(この)負傷者(ふしやうしや)を己(おの) が邸宅(やしき)に運び入れさせ猶(なほ)隣家の若著(わかもの)をも叩き起(おこ)して手伝はせ其(その) 邸宅(ていたく)は玄関とも云(い)はず大広|間(ま)とも云はず書院(しよゐん)も寝室も全家(ぜんか)挙り て病院に充(あ)て箪笥(たんす)長櫃(ながびつ)よりは夫婦の晴衣(はれぎ)袷綿入(あわせいれ)単衣(ひとへ)の別なく片 端より取り出(いだ)して夫婦(ふうふ)の衣類悉皆を負傷者(ふしやうしや)なれば一々|傷所(きずしょ)を療治して是(これ)に繃帯を施(ほどこ)し夫婦徹夜|少(すこ)しも眠(ねむ)ら ず猶(なほ)翌日も引継き負傷者(ふしやうしや)を集めたれば救難(きうなん)の傷者殆んど八十余 人(にん)さしもに広(ひろ)き邸宅も遂(つひ)には傷者の置(おき)場に狭隘を感(かん)じ今は殆ん ど夫婦(ふうふ)の衣類(いるゐ)も皆負傷者に着せ果(はて)てゝ夫婦が今(いま)着せし衣類の外 に一|物(ぶつ)なし琢治つく〴〵|思(おも)ふやう猶|此(この)上に幾多の死傷者(しゝやうしや)あるや を計らず是が運搬(うんぱん)飲食にも今後(こんご)幾何(いくばく)の人手を要(えう)し又幾何の米穀(べいこく) 衣類(いふく)を要するやを知(し)る可(べか)らずされど今(いま)此(この)役場なく警察(けいさつ)なく郡 役所なく殆(ほと)んど無(む)政府同様の場合(ばあひ)に当り尋常一様にては臨機(りんき)の 救難(きうなん)を為し遂げ難(がた)くよし〳〵|我(わ)れ仮に数条(すでう)の規定を設け是に 従(したが)はざるものは我命(わがいのち)を賭して是を決行(けつかう)せしめんと救難(きうなん)憲法七章 を作(つく)り此(この)憲法(けんぱう)に違反するものは銃殺(じうさつ)す可しと決心(けつしん)す七章の救難 憲法(けんぱう)左(さ)の如(ごとし) 【右頁下段】  一|総(すべ)て男子は各家(かくか)に幾人あるを問はず悉く人夫に出(い)づ可(べ)き事  一|順番(じゆんばん)に依(よ)り婦人五|人(にん)宛(づゝ)負傷者の看護(かんご)に従事す可き事  一|人夫(じんぷ)の内より五|人(にん)を選(えら)宿直せしめ非常(ひじやう)に備(そな)ふる事  一|順番(じゆんばん)に毎日(まいにち)豆腐(とうふ)三十個を製(せい)し負傷者に供(きやう)す可き事   但|大豆(だいづ)不足(ふそく)ならば種子用(たねよう)大豆(だいづ)を用(もち)ゐる事(こと)  一|各戸(かくこ)より蒲団(ふとん)一枚宛を出(だ)し負傷者に給(きふ)する事  一|畳(たゝみ)も前項(せんかう)に同(おな)じ  一|人夫(にんぶ)総数(そすう)を左(さ)に   内(うち)十二人は負傷病者の運搬(うんぱん)に従事す可(べ)き事   内(うち)五人は炊事|其他(そのた)雑役(ざつえき)に従事す可(べ)き事   其他(そのた)は悉く屍体(したい)捜索(そうさく)及其(その)処置(しょち)を為(な)す事(こと)  右(みぎ)之|命(めい)に違反する者(もの)は直に銃殺(じうさつ)す可き事 琢治が遭難(さうなん)の負傷者を救(すく)ふに急なる真実(しんじつ)以上の憲法に違反(ゐはん)する ものは之を銃殺(じうさつ)するの考へなりしならん彼(かれ)が愛(あい)せる猟銃(れうじう)に銃丸 こめて床(とこ)の間(ま)に飾(かざ)り置き生存(せいそん)の家族を呼(よ)び集へて一々|是(これ)に厳命(げんめい) を下(くだ)すに予て名望(めいばう)ある数代の医師(ゐし)とて誰(だれ)ありて其命(そのめい)に背くはな く皆(みな)琢治の義侠を見倣(みなら)ひ快よく負傷者|運搬(うんぱん)看護(かんご)に尽力せしかば 琢治も大(おほい)に力を得て唐丹一村は残(のこ)る隈なく捜索(さうさく)させ負傷者は之 を我(わが)邸宅(ていたく)に運び入れさせ屍体(したい)は之を一|所(しょ)に集(あつ)め引取人(ひきとりにん)あるもの は引渡(ひきわた)しなきものは厚(あつ)く之(これ)を葬り兎角(とかく)する間に琢治が貯蔵(ちょざう)の薬 品繃帯尽き果てたり此第(このだい)一の困難に屈(くつ)せず琢治は馬(うま)を飛(と)ばせて 薬品(やくひん)買入(かひい)れの為(た)め釜石に至(いた)る釜石の惨状|亦(また)激烈(げきれつ)にして薬品(やくひん)どこ ろにあらざれば早速(さつそく)鉄長組の鉱山(くわうざん)に馳(は)せ付(つ)け鉱山医(くわうざんゐ)に惨況(さんきょう)を説(とい) て薬品(やくひん)繃帯(ほうたい)の幾分(いくぶん)を借り受(う)け一ト先(ま)づ安堵(あんど)して家(いへ)に帰(かへ)りしが第(だい) 二の困難(こんなん)は間(ま)もなく来(きた)りて負傷者に給与(きふよ)す可き紙類(かみるい)悉皆(しつかい)尽(つ)き果 てぬ障子(しやうじ)襖(ふすま)も之を剥がして骨(ほね)を顕はし今(いま)は早や詮方(せんかた)なければ命 じて数代(すうだい)の蔵書(ざいしょ)を出(いだ)させ四書五|経(けう)を始めとして其他(そのた)の珍書(ちんしよ)を引 【左頁挿絵二枚】 【上題】 志津川の人民汽笛を聞て騒擾するの図 【下題】 釜石の永沢某遭難の図