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コレクション: STAGE7

風俗畫報臨時増刊第百二十號 大海嘯被害録(下) - 翻刻

風俗畫報臨時増刊第百二十號 大海嘯被害録(下) - ページ 21

ページ: 21

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【右頁上段】     ●宮古町 ○宮古湾内の海嘯  は午後八時三十分に起り前後(ぜんご)十二回の激 浪ありて此間一時間余に亘(わた)る最初(さいしょ)の浪は高さ五丈余に上り第二 回は之に次ぎ漸次(ぜんじ)に低(ひく)かりしも最後の浪猶ほ平時(へいじ)には見るべか らずと第一回目に海上(かいじやう)に押流(おしなが)されたるもの数百人声を限りに号 泣して救を求めたるも第二回の浪至るや号泣(がうきふ)の声全く消失(きえう)せて 唯|苳々(とう〳〵)たる声ありしのみなりといふ ○古老海嘯の前兆(ぜんてう)を知る  本年三月に湾内(わんない)の沿岸到る処鰻多 くニ百余尾を捕獲(ほくわく)したるもの尠なからず甚だしきは鳥(とり)さへ沙を 掘りて之を啄(ついば)みたりと古老之を見て海嘯の必ず襲来(しふらい)せんことを 予言(よげん)したるも一人の信を措くものなかりしと又|古老(ころう)は当日午後 七時頃|海潮(かいてう)俄かにニ百余間 (平時は五六間)退(しりぞ)きたるを見て海嘯の 数刻後(すうこくご)に迫まれるを知り予め警戒(けいかい)したるも普(あまね)く人に告ぐるの暇 なかりしは今に於て遺憾(ゐかん)極まりなしと言ひ居れりと ○海嘯の前兆(ぜんてう)  宮古町にては去十四日より三十|尋(ひろ)の深さの堀 井戸悉く濁(にご)りしのみか井戸により其|水(みづ)白(しろ)く若くは赤く変色(へんしょく)し人 々奇異の思を為し居れりと固(もと)より斯る大海嘯のあるべしとも考 へ及ばず又十五日 (正午十二時)の干潮(かんてう)は平日の干潮に比し其|減(げん) 退(たい)せし事|非常(ひじやう)にて曾て見えざるの島又は岩迄(いはまで)現はれたれば海浜 に居たる小供等(こどもら)は何心なく其間に戯(たはむ)れ居たり是は是れ大海嘯の 前兆(ぜんてう)なるに相違なきも考慮(かうりょ)の到らずして端(はし)なく大惨禍を沿海に 被らしめしは実に大遺憾(だいゐかん)の次第(しだい)といふ可へし ○人(ひと)を見て泣出(なきいだ)す  宮古|警察(けいさつ)の巡査徳田氏|当夜(たうや)囚人(しうじん)監守のた め監獄(かんごく)に在り変(へん)を聞(き)き馳(は)せて鍬ヶ崎に到(いた)るや二|階屋(かいや)平屋船舶ゴ タ〳〵になり通行(つうかう)すべからず因で屋蓋(をくがい)に飛上り屋根伝(やねづた)ひに二三 丁走り一|貸座敷(かしざしき)の窓より二|階(かい)に飛入る時(とき)に娼妓(しやうぎ)一名戸主の婦(ふ)一 名(めい)ボンヤリ座してアツケに取られたるが如(ごと)くなりしが氏(し)の来(きた)る 【右頁下段】 を見(み)嬉(うれ)し泣(な)きに泣出したりと ○巡査(じゆんさ)の働き  宮古警察署長以下皆|良(よ)く其職を尽(つく)せるは人民 の感賞(かんしやう)する所鍬ヶ崎に下宿(げしゅく)したる非番(ひばん)二|人(にん)物音(ものおと)に驚き正服を着(つ) けんとするハヤ水(みづ)は床に上る急(きふ)に二|階(かい)に上りて着装し屋根|伝(つた) ひに走(はし)り人(ひと)を救ふこと幾人(いくにん)なるを知らず翌日(よくじつ)に至り人(ひと)の恩を謝 する者(もの)多(おほ)きを以(もつ)て自から驚(おどろ)きたりと云(い)ふ ○不幸の娘  宮古の駒井吉三郎の妻は田の浜の黒沢六蔵の妹 なり夫婦(ふうふ)の中(なか)に子一人ありカヲと云(い)ふ共(とも)に田(た)の浜(はま)に往(ゆ)き生活(せいくわつ)す 当夜(たうや)妻は子を負(を)ひ材木(ざいもく)に推伏せらる吉三郎六蔵|共(とも)に之(これ)を助(たす)けん とせし処「カヲはとても助からないし妾もコンナにされては助 からないオ前達(まいたち)二人は助(たす)かれるものなら逃(に)げて下され」と泣(な)く 両人(れうにん)泣(な)きながら材木を取(と)り除(のぞ)けんとする中(うち)第(だい)二の高浪(たかなみ)来(きた)り遂に 妻(つま)は佛名を唱(とな)へつゝ波浪中に没せりと ○決別して死す  宮古の字|旧舘(きうくわん)に尾本與兵衛といふあり材 木に寄(よ)りて推流(おしなが)され新晴橋に至り救助(きうぢよ)を乞ふ橋の上の人「今(いま)少 し泳(およ)げ左すれば縄(なは)を下げるからと」云ふに與兵衛は苦(くる)しき声(こえ)を 揚(あ)げ「とても手足利かぬ故(ゆゑ)泳(およ)ぐこと能(あた)はず後(あと)を宜(よろ)しく頼(たの)むオレ は尾本與兵衛なり」とて其まゝ|波浪(なみ)に没入(ぼつにふ)せりと ○癲狂者無事  宮古|付近(ふきん)の被害地に二三の癲狂者(てんきやうしや)ありしが是(これ) 等(ら)も亦(また)盲者と同じく始終|木材(もくざい)に由(よ)りて悉く無事(むじ)なるを得(え)たりと いふ ○挨拶が此世の終り  帆前船(ほまへせん)は宮古(みやこ)の平山直次郎なるものゝ 所有(しょいう)に属し直次郎の父母は其(その)進水式に列(れつ)せんとして当(たう)日午後八 時頃(じごろ)同所に赴き一|同(どう)に挨拶(あいさつ)するや否や激浪(げきらう)の為め捲|去(さ)られて惨 死を遂(と)げぬと     ●鍬ヶ崎村 ○篤志家  鍬ヶ崎町の鈴木甚左衛|門(もん)と云(い)へるは同県(どうけん)有名の篤 【左頁挿絵二枚】 【上題】 釜石町海嘯被害後の図 【下題】 溺死者追吊法会の図