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コレクション: STAGE7

風俗畫報臨時増刊第百二十號 大海嘯被害録(下) - 翻刻

風俗畫報臨時増刊第百二十號 大海嘯被害録(下) - ページ 23

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【右頁上段】 は十二|人(にん)の家族(かぞく)中次男某が鮪網に出(い)で居りて難(なん)を免(まぬか)れたる外(ほか)は 悉く死滅し収入(しうにふ)役根守常永書記閉伊定七同菊地正一は全家死亡 し巡査種市愛仁 (一家八人)同高橋為次 (三人)小学校長赤坂長五 郎 (三人)訓導乳井清安 (三人)同坂牛萬 (家族なし)郵便局長坂本 模保 (六人)も亦全家|流亡(りうばう)して絶家(ぜっか)となれり村内(そんない)の公吏及職員に して健全(けんぜん)なる者は赤十字|総会(そうくわい)に臨みて帰村の途(と)にありし村長岩 泉政夫と訓導及川正助の二|人(にん)あるのみ町会議員は八人 (末崎撰 出を除く)中(ちう)六人は死亡(しぼう)し二|人(にん)は重傷を負(を)ひぬ絶家となりし者 は以上(いじやう)諸氏の家(いへ)を合(あは)せ百三十戸の多(おほ)きに達(たつ)せり ○船舶(せんぱく)の流失せるもの  五百三十 (流失(りうしつ)せざりしは鮪(しび)網に出 て居(を)りしものゝみ)田園(でんえん)の害を被ること五十町|歩(ぶ)十数丁の石磧 に間口五間|奥(おく)行三間位の三個の仮小屋(かりごや)と二間四方位の一個の天(てん) 幕(まく)を見る一は則(すなは)ち役場駐在所及び患者室を合置(がふち)せるもの二は則 ち生残(いきのこ)りたる村民一同が寂(さび)しき夢を結ぶの所にして天幕(てんまく)は則ち 赤十字病院診察所たり現今(げんこん)見(み)る所の家屋は只(た)だ是れのみアゝ只 だ是れのみ ○田老の鳥居伝右衛門  田老(たらう)に鳥居伝右衛門といへる豪家(がうか)あ り六万円余の財産(ざいさん)を有し近傍の漁民を始(はじ)め宮古町民の中にても 鳥居を資本主(しほんしゆ)として大に漁業上の便利(べんり)を得来(えきた)りしが同家は今回 の海嘯に遇(あ)ふて其家蔵(そのいへくら)を洗ひ取られしのみならず一家を挙て惨 死(し)の不幸(ふかう)に陥りたれば之が為に被むる宮古辺の間接(かんせつ)の損害(そんがい)は実 に僅少ならずといふ ○下摂待の惨禍  下摂待(したせつたい)は田老村に接する十|戸(こ)の小部落(せうぶらく)なり 其戸数(そのこすう)の少なきに似ず二十七|頭(とう)の牛(うし)を飼養せしが海嘯の為め其 全部落と牛の残らずとを持去られ村民(そんみん)は四十三名の中十七名|生(せい) 存(ぞん)せしに過ぎず惨又惨(さんまたさん) ○出漁者の断腸  田老村の内(うち)大字乙部に於て該夜(がひや)四人|乗(のり)十五 【右頁下段】 隻(せき)にて流し網(あみ)に出たる者あり二里以丑寅の沖にて網を張(は)り居 りし処陸の方にて汽車の走るに似(に)たる音せり浪は至極(しごく)穏なれど も兎(と)に角(かく)網を引上げて帰る途中(とちう)大浪に出逢ふこと三回|同時(どうじ)に流 木|夥(おびたゞ)しく来り始めて海嘯なることを知(し)り港口に来りたれど浪 高くして入るべからず翌朝(よくてう)再び港口(かうこう)に居(を)りたるが最も奇(き)なるは 此夜(このよ)田老全村一個の灯明(とうめう)もなく山下岩上に救を乞ふ声(こえ)あれども 暗夜(あんや)なれば其故を知らず迂闊(うくわつ)に手も付けられず心配(しんぱい)の中に一夜 を送り翌朝(よくてう)に至りて見るに全村一戸もなく流(なが)れたるに又々悲涙 に咽びしと云ふ    ●同県北閉伊郡     ●小本村 ○箱石藤右衛門  は小本村の酒商(さけしやう)にて近村に隠(かく)れなき豪家な れば其家屋(そのかをく)の構造と云(い)ひ土蔵の堅牢と云ひ宮古町にも少(すく)なき建 物なりしに土台石(どだいいし)の下幾尺まで洗(あら)ひ取られて其(その)痕跡(こんせき)を止めずと 云ふ ○紙幣を攫みし侭死す  小本村字中野に工藤長左衛門と称(しょう)す る酒造家(しゆぞうか)あり戸主長左衛門死亡して海嘯(つなみ)当夜(たうや)は恰(あたか)も二七日なれ ば親戚(しんせき)十七名|集(あつま)りて佛事を営み居りしに無残(むざん)や十七名共惨禍に 罹(かゝ)りて横死を遂(と)げぬ中にも長左衛門の一|子某(しぼう)は八十円の紙幣を 掴(つか)みたるまゝ|砂中(しやちう)に埋(うづ)もれて絶息し居(ゐ)たりと     ●普代村 ○誰(た)が子(こ)なるらむ  普代村にて水練(すゐれん)に達せる某(ぼう)激浪(げきらう)を避(さ)けて 岸(きし)に達せしに出産後四五ヶ月の赤兒(あかご)が泥土(どろつち)の中より顔(かほ)を出して 呱々(こゝ)とばかり泣居(なきゐ)たるを救ひ置しが父は誰ぞ母は誰ぞ ○かたみの袖(そで)  三十四五|才(さい)の婦人二子の袷の片袖(かたそで)を抱しめて さめ〴〵と泣(な)き居れるを問へば此|婦人(ふじん)遠方に嫁(か)し居りて偶々実 家を訪(と)ひし折此|災難(さいなん)に一家十三人|悉(こと〴〵)く骸(から)も止めず唯だ此妹の 【左頁挿絵二枚】 【上題】 大谷にて一小女臼中にて助命を得るの図 【下題】 久慈町魚問屋雇人流馬に跨り逃るゝの図