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コレクション: STAGE7

風俗畫報臨時増刊第百二十號 大海嘯被害録(下) - 翻刻

風俗畫報臨時増刊第百二十號 大海嘯被害録(下) - ページ 25

ページ: 25

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【右頁上段】 し小女(せうぢよ)は疾く免れて高地に避難しありしと ○天罰(てんばつ)踵(きびす)を旋(めぐ)らさず  野田村大字城内に佐藤何某といへる人 海嘯の当日|海面(かいめん)にて轟然たる響を聞きスワこそ日露(にちろ)の開戦(かいせん)よと 二十余人の妻子|眷属(けんぞく)を引つれて海蔵院といへる小高(こだか)き寺院に駈 つけて危(あや)ふき難を逃(のが)れしが此佐藤氏は村内|屈指(くっし)の豪家にて日頃 盗賊の覗(うかゞ)ひ居たりけん同氏家族が今(いま)しも周章して海蔵院に引(ひ)き 退(の)きたるを早くも見(み)て取り一人の曲者|斧(おの)を携(たづさ)へて押し込みつ箪 笥の錠前(ぢやうまい)を打(う)ち破り衣服其他の目(め)ぼしき物品を攫(つか)み去らんとす る其一|刹那(せつな)狂瀾(きやうらん)怒潮(どてう)の驀地(まっしぐら)に押し寄せ来(きた)りて差しも堅固なる同 家もグワラ〳〵と粉微塵(こなみぢん)に潰(つぶ)れしかば何かは以てたまるべき此 の悪漢(あくかん)は吾れと我が携(たづさ)へたる斧を以て見(み)るも無残(むざん)なる迄に自分 の頭上(づじやう)を立(た)ち割(わ)り鮮血(せんけつ)に塗れて箪笥(たんす)の前に倒(たほ)れ死し居たりと     ●宇部村 ○激浪山を躍(おど)り踰ゆ  宇部村の内字|小袖(こそで)は海岸の高地(かうち)なるが 南方より襲(おそ)ひ来りし激浪(げきらう)は其山を躍(をど)り踰(こえ)て山後の家屋を倒潰し たりと勢(いきほひ)の猛烈(まうれつ)なる驚倒するに堪(たへ)たり     ●久慈町 ○山に投上げらる  久慈にても二|人(にん)の子供(こども)納屋の中にて遊び 居たるに海嘯は納屋(なや)諸共子供を山に打付(うちづ)け而も子供を残して納 屋のみ奪(うば)ひ去(さ)りしかば子供は不思議にも命(いのち)を助かりし由 ○大頓智  久慈町|門前(もんぜん)なる肴問屋の雇人|沖(おき)に流(なが)されしが泳げ る馬(うま)のあるを見(み)て其尾に縋(すが)り漸くにして其背(そのせ)に跨(またが)り平手を以て 必死(ひつし)と其尻を鞭打(むちう)ち僅かに山に逃れ出たりと近頃(ちかごろ)の機転者とい ふ可し (挿図参看) ○地中に声あり  海嘯(つなみ)の翌日警官は倒家(たふれや)の下より傷者死者を 出すに際(さい)し地中よりして助を求(もと)むるものあり怪みながら其声の 在(あ)る所を尋ぬれば正(まさ)しく藁屋(わらや)の下なり急ぎ人夫を指揮(しき)して之を 【右頁下段】 救出せしに一|家(か)六人或は棟に圧(お)され梁に伏せられ呻吟(しんぎん)苦悶(くもん)して ありしかば速(すみやか)に手当を施せしも二名は遂(つい)に絶命せりと ○罹災者の救助  門前の高所(かうしょ)に残りたる庵室(あんしつ)を以て臨時事務 所と為(な)し郡吏、警吏、町吏|昼夜(ちうや)交(かは)る〴〵茲に出張して罹災の民 を賑恤(しんじゅつ)す老少婦女の飯器を携へて集(あつま)り来る者二個の握飯(にぎりめし)を施与 されて欣々(きん〳〵)拜謝し去るの状悲愴の極(きょく)人をして泫然(げんぜん)たらしむ ○佛旗(ぶつき)を纏はしむ  沿海(えんかい)一帯の習俗として臥床(ぐわしよう)に入る時は老 幼男女を問(と)はず赤裸となりて衾中(きんちう)に入るが故にソラ海嘯と聞く や否(いな)や皆赤裸のまゝにて飛出(とびいだ)したれば潮退(しほしりぞ)きて後着るに衣なく 纏(まと)ふに帯なく惨憺の状言語に絶(ぜつ)せしかば事務所に充(あ)てし庵寺の 中より数多(あまた)の佛旗を取出し来りて一時之を纏はしめたりと云ふ ○死屍(しゝ)の陳列  海嘯の翌日七十人許の死骸(しがい)を堀出したれど何 処の誰(だれ)か判然せぬ故数多の検視人を集めて之を調(しら)べ一々|札(ふだ)を付 て遺族(ゐぞく)に引渡せりとなん惨又惨 ○牛馬の屍に窮す  災後(さいご)始末に窮せしは牛馬の死屍(しがい)なり何を いふにも大嵩(おほかさ)のものなれば一頭に十四五人の人夫を付(ふ)し之を遠(ゑん) 隔(かく)の地に持運(もちはこ)びて埋(うづ)めたり之が為に要(えう)したる手数(てすう)は実に非常な りといふ     ●種市村 種市村は戸数(こすう)六百五十三、人口四千五百八十一の一|大漁村(だいぎょそん)なり しが瀕海(ひんかい)の地は痕跡(こんせき)なく洗ひ去られて四十三戸の家屋(かおく)と百廿四 棟の建物とを流亡|破壊(はくわい)し百八十二人の惨死者と三十四名の負傷 者とを出せり加之ニ百二十六艘の船舶(せんぱく)全く破滅(はめつ)して沖に在りし 一艘の無事(ぶじ)なるに過ぎず今郡長浅沼介郎氏の直話(ぢきわ)を記して惨況 の資と為すべし ○馬乗ながら一家|全滅(ぜんめつ)  字カヌカといふ所の者一家|親子(おやこ)三人 して其|妻(つま)の里(さと)なる八戸に赴き帰路即ち陰暦|端午(たんご)の日には妻と子 【左頁挿絵二枚】 【上題】 白浜村の一小児神棚に圧せられて母と祖母とに別るゝの図 【下題】 久慈町の被害民寺中の佛旗を取出して身に纏ふの図