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コレクション: STAGE7

風俗畫報臨時増刊第百二十號 大海嘯被害録(下) - 翻刻

風俗畫報臨時増刊第百二十號 大海嘯被害録(下) - ページ 30

ページ: 30

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【上段】 拒絶(きょぜつ)するものあるにさりとは義侠の至りにこそ ○井水減ず  海嘯|前井水(ぜんゐみづ)の減じたるは事実(じゝつ)なれど人|多(おほ)く心付 かざりしなり八戸の白金村に於(おい)ても当日(たうじつ)井水(ゐみづ)の減少に心付(こゝろづ)きた る老人(らうじん)ありて故旧(こきう)親族に戒告(かいこく)しオサ〳〵|用意(ようい)に怠りなかりしが 居村の地盤(ぢばん)高(たか)かりし為め激浪(げきらう)浸襲(しんしふ)せざりしと云ふ ○水火の責  八戸の近村(きんそん)に於ては当夜端午の祝宴(しゅくえん)最(さい)中ソック リ家(いへ)を激浪(げきらう)に捲去(まきさ)られ次第(しだい)に沖(おき)の方(ほう)に持出(もちいだ)されしがランプにて も損(そん)じたりと見(み)え忽ち一|団(だん)の大火(たいくわ)と変じ叫喚の声遠く聞(きこ)えたり と云へり ○葬式  死者(しゝや)生者よりも多(おほ)き処あり葬式(さうしき)なんどといふが如き 固(もと)より為(な)し得(う)べきに非(あら)ずドコでも構(かま)はず死屍(しゝ)の在(あ)る所に於て石(せき) 油(ゆう)を注(そゝ)ぎ漂材(へうざい)を積重(つみかさ)ねて焼(や)くと ○男女の割合(わりあひ)  海嘯の為め死亡せるは概(がい)して男の百に対(たい)し女 は百二十五の割合(わりあひ)なりといふ ○海嘯(つなみ)襲来の時刻  唐丹村は六月十五日午後八時十分頃に起(おこ) り釜石町は八時三四十分の間(あひだ)に起り山田村に於ては九時頃に起 れりと云(い)ふ其北方に至るほど時刻(じこく)の遅(おそ)きを見れば海嘯の南より 漸次北に向(むか)へるを知(し)るべし又其来襲の模様にも差異(さゐ)あり唐丹は 極(きは)めて大きく激烈に一回|来襲(らいしう)し釜石は僅かに間を隔(へだ)てゝ二回の 来襲あり山田町は一|回(くわい)の来襲幾分の猶予ありて二|回目(くわいめ)の来襲あ りしなりと ○経験者多く死す  今(いま)より四十一年前の海嘯(つなみ)は其来ること緩(ゆるやか)に して二|階(かい)に居たるものは潮水(てうすゐ)の退(ひ)くを待ちて緩々|降(を)り来り無事 に一命を助(たす)かりたるが故に此度(こんど)の海嘯にも敢て驚(おどろ)かず概ね油断 せしが為めに助(たす)かるべきものも溺死(できし)したり之に反して其の経験(けいけん) なきものは慌(あは)てゝ逃出したるが為(た)めに生命を全ふせるもの多し と前後(ぜんご)の海嘯大に其|趣(おもむき)を異(こと)にせるを知るべし 【下段】 ○越喜来(をつきらい)より釜石に至(いた)るまで外洋(ぐわいえう)に向て相対する各(かく)村落は皆損 害を受けたるにも拘はらず其間に於て南に向へる根白(こんぱく)、千歳及 び北に向へる大石の如きは左したる災害(さいがい)を受けず殊に大石は小 白浜と相距る遠からず海上一里とも離(はな)れざる同じ唐丹湾に在り ながら僅に一戸を損(そん)せしのみとは奇(き)に似たれども波勢(はせい)の及ぶ所 横に受けるよりは正面(しやうめん)に受くるの激烈(げきれつ)なること通常の海浪(かいらう)に於 ても知る可きなり ○助命者の疾病  一たひ海嘯(かいせう)に捲(ま)き込まれて不思議にも一|命(めい) を助(たす)かりしものは生命こそ助(たす)かることは助かりたれ概(おほむ)ね全身に重 傷を負(お)ひ且つ濁水(だくすゐ)を呑みたる為め胃病(いびやう)を起し或は非常(ひじやう)の激動を なせし為(た)め肺掀衝(はいきんしやう)を起して気息|奄々(えん〳〵)たるもの多し釜石仮病院に 収容せる患者の如き大抵(たいてい)皆(みな)此類(このるい)なりと ○宣教師(せんきやうし)靴を穿ちて死す  耶蘇宣教師仏国人某当夜海嘯あり と聞(き)き或る一人と共に周章(あはて)逃(に)げ去らんとする時某は靴(くつ)を穿(うが)たん とて波に浚はれ他は跣足(はだし)にて一歩早く逃(に)げ出でたるが為めに命 を拾ふ靴(くつ)人命(じんめい)よりも重きか沈着(ちんちゃく)も時にこそよれ ○夢(ゆめ)に海嘯中に漂ふ  胆(きも)の大なるが為めか将た寝坊の習慣あ るが為めか一人の男(をとこ)は当夜寝し侭(まゝ)波(なみ)に簸弄せられて或る山腹ま で持(もち)ゆかれフト目を覚(さ)まして四辺を見廻し始めて其海嘯ありし を知りたりと云ふ ○子故(こゆゑ)の闇の物狂(ものくる)ひ  岩手県気仙の駐在(ちうざい)巡査山口某二人の子 を抱(だ)きて波に捲(ま)かれ何時しか子供を取り去(さ)られ家族六人|皆(みな)死失 せて己れ一人|生残(いきのこ)り哀傷の余り心の狂ひしにや官服を着(ちやく)せし侭(まゝ) 頬冠(ほうかむり)をなし大風呂敷に握飯(むすび)を包(つゝ)みて背負(せおひ)ながら此処彼処に死体(したい) を探(さが)して歩き居れりと ○一念弥陀佛 浮世(うきよ)の望(のぞ)みと楽(たのし)みの絶果てし哀(あは)れさは魂(たましい)も藻(も) 抜(ぬけ)の売(から)となりし一人の老婆(らうば)いづこより得来りけむ一個の鉦を持