翻刻
【右頁中】
藤原道信朝臣(ふぢはらのみちのぶあそん)
明(あけ)ぬれば
くるゝ
物(もの)とは
しり
ながら
なほ恨(うら)めしき
朝(あさ)ぼらけかな
【右頁上】
此哥は後(のち)の
あしたの哥也
夜(よ)のあけては
又 暮(くれ)はべる
べきはしりたれ
ども人にあふて
わかれのつらさに夜の
はやくあけぬる此あさ
ほらけか【別刷は「が」】うらめしきと也
後拾遺(ごしうい)第十二 恋(こひ)詞書に
女のもとより雪のふり侍る
日かへりてつかはしけるとありて
哥二首ならびて入りける
〇かへるさの道やはかはる
かはらねどとくるにまどふ
けさのあはゆき今一 首(しゆ)は
此あけぬればの哥也しりな
がらといふにふかき心あるにや
【左頁中】
右大将道綱母(うだいしやうみちつなのはゝ)
歎(なげ)きつゝ
ひとり
ぬるよの
明(あく)るまは
いかに久(ひさ)
しき
物(もの)とかは
しる
【左頁上】
此哥の心は此御もとへある
人かよはれしに門(かど)の戸(と)【別刷は「かど」「と」のルビなし】おそ
くあけしとてうらみられ
しかば【別刷は濁点なし】かくよみていだしける
そなたにはなれぬる人二人り
ありてこなたへはまれにこそ
かよひき給へさればわらはが【別刷は濁点なし】
まちわびてうちなげきつゝ
ひとりねのとこに夜(よ)【別刷はルビなし】のあく
るをまつ間(ま)【別刷はルビなし】の久(ひさ)しきをば
いかにかなしきと思ひ給ふ
や戸をあくるまのおそき
をだにうらみ給ふはおろか
にこそといへる也 後(ご)【別刷はルビなし】しうゐ
集(しふ)第十四 恋(こひの)四詞がきに
入道(にうどう)【別刷はルビなし】 摂政(せつせう)まかりたりける
に門をおそくあけければうら
みけるによみて出しけると有
現代語訳
【右頁中】
藤原道信朝臣(ふじわらのみちのぶあそん)
明けぬれば
暮るる
物とは
知り
ながら
なお恨めしき
朝ぼらけかな
【右頁上】
この歌は後朝の歌である。夜が明けては、また暮れるものだと知ってはいるが、人に会って別れのつらさに、夜が早く明けてしまったこの朝ぼらけが恨めしいということである。後拾遺集第十二恋の詞書に「女のもとより雪の降りはべる日帰りて遣わしけるとありて」歌二首並んで入っている。○「帰るさの道やは変わる変わらねど解くるに惑う今朝の淡雪」もう一首はこの「明けぬれば」の歌である。「知りながら」というところに深い心があるのであろうか。
【左頁中】
右大将道綱母(うだいしょうみちつなのはは)
嘆きつつ
ひとり
寝る夜の
明くるまは
いかに久しき
物とかは
知る
【左頁上】
この歌の心は、この御方にある人が通われていたが、門の戸を遅く開けたといって恨まれたので、このように詠んで出したのである。そなたには馴れ親しんだ人が二人いて、こちらへは稀にしか通って来られない。それでわたしが待ちわびて嘆きつつ、ひとり寝の床で夜の明けるのを待つ間の長いのを、どんなに悲しいと思うことでしょう。戸を開けるまでの遅いのさえ恨まれるのは浅はかなことですと言ったのである。後拾遺集第十四恋四の詞書に「入道摂政参られたりけるに門を遅く開ければ恨みけるによみて出しけると有る」
英語訳
【Right Page Center】
Fujiwara no Michinobu Ason
Though I know
that dawn
will bring
the evening,
still I resent
this hateful
daybreak.
【Right Page Top】
This is a "morning after" poem. Though one knows that when night ends, evening will come again, because of the pain of parting after meeting someone, this daybreak that came too quickly is resentful. In the Go-Shūi-shū, Collection 12 (Love), the headnote states "sent from a woman's place on a day when snow was falling upon returning," and two poems appear together. ○ "Does the path home change? Though unchanged, I am confused by the melting of this morning's light snow." The other poem is this "Though dawn has come" verse. Perhaps there is deep meaning in the phrase "though I know."
【Left Page Center】
Michitsuna no Haha, Mother of the Right General
Sighing constantly,
alone through
the night until
dawn breaks—
how can you know
how long
such time feels?
【Left Page Top】
The meaning of this poem is: a certain person who visited this lady was reproached for opening the gate late, so she composed this poem in response. You have two familiar women there, and you come here only rarely. So when I wait longingly, sighing constantly in my solitary bed, waiting for night to end—how sad do you think that long time feels? To reproach me even for the lateness in opening the gate is shallow, she says. In the Go-Shūi-shū, Collection 14 (Love 4), the headnote states "when the Lay Priest and Chancellor came to visit, because the gate was opened late and he expressed resentment, this was composed and presented."