翻刻
【右丁】
明けぬれば しり 朝ほらけ哉
くるゝ ながら
ものとは なほうらめしき
是も女にあひてその朝かへりて
よみてやられし哥なりこゝろは 藤原
夜があけたらばまた暮る
ものゆゑ
暮たらばまた行て
あはれるとはしりてゐながら
さしあたりての
わかれのかなしさに 道
やつはり夜のあけるのが 信
つらくうらめしく
おもはれると也 朝臣
【右丁】
久しき 嘆きつゝぬる夜の
ものとかは
しる あくるまはいかに
是は入道攝政兼家公ある夜かよひ来たまひ
けるに門を明る事がすこしおそかりける 右大将
を待にて門の外に立くたびれたと内へいひ
入れこせ給しかば内よりよみて出されし 道綱
哥也心はわづかに門の戸を明る間と待 母
かねてたちわづらふとのたまふが君の御
出のなきをまち〳〵てうちなげき が
ら独ねまする夜のあけるまはどのやう
にひさしいものであらうと
おぼしめすぞといへる也
現代語訳
【右丁】
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな
これも女性に会ってその朝に帰って詠んで送った歌である。心は、夜が明けたらまた暮れるものだから、暮れたらまた行って会えるとは知っているけれども、さしあたっての別れの悲しさに、やはり夜の明けるのが辛く恨めしく思われるということである。
【左丁】
嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る
これは入道摂政兼家公がある夜通って来られた時に、門を開けることが少し遅かったので、待ちかねて門の外に立ち疲れたと内へ言い入れなさったので、内から詠んで出された歌である。心は、わずかに門の戸を開ける間と待ちかねて立ち疲れるとおっしゃるが、あなたのお出でのない時を待ち続けて嘆きながら一人寝をする夜の明けるまでは、どのように長いものであろうとお思いになりますかと言ったのである。
英語訳
【Right Page】
Though I know that when dawn breaks, night will come again, still I find this daybreak hateful.
This is also a poem composed and sent after spending the night with a woman and returning that morning. The meaning is: I know that when night breaks, it will become dark again, and when it becomes dark, I can go and meet you again, but because of the immediate sadness of parting, the breaking of dawn still seems painful and hateful.
【Left Page】
Do you know how long the nights are until dawn when I lie alone lamenting?
This poem was sent out from inside when Nyūdō Sesshō Kanke-kō (Prince Kanemasa) came visiting one night, but the gate was opened a little slowly, so he complained to those inside that he had grown weary waiting outside the gate. The meaning is: You complain about growing weary waiting for just the brief moment it takes to open the gate, but do you know how long the nights are until dawn when I wait and wait for your visits that don't come, lamenting and sleeping alone?