翻刻
【右丁】
あら 此世の外の ひとたびの
ざら あふことも
む おもひでに今 がな
これは病にわづらひてある時契かはしける
人のもとに おくられし哥也心はかやう 和
に病氣かおもくなりてとても命はある
まいとおもへば此世にをらぬやうに 泉
なりて後の世にて思ひ出しぐさに
今一度恋しい君にあひたい事かな
何とぞあひに来て下されと也 式
思ひ出とはまへかた嬉しき事など有
しを後におもひ出して
なぐさむをいふ也 部
【左丁】
めぐりあひて わかぬ よはの
みしやそれとも まに 月哉
雲がくれにし
是はををみなともだちにてありし人に
久しく逢はずして途中にちよつと
行あひしに七月十日頃月のぼらぬを 紫
きにて■■■帰りしかば名残をしく思ひ
てよまれし哥也心はあまり久しぶりに
出逢たれば見わすれてその人かその人
でないかとまたはき〳〵とわからぬうちに 式
わかれて帰しかばてうど夜中の月のやうに
雲にかくれたやうで名残をしき事かな 部
とその人を月によそへて
よまれし哥也
現代語訳
【右丁】
あらざらむ この世の外の 思ひ出に 今ひとたびの あふこともがな
これは病気に患って苦しんでいる時に、契りを交わしていた人のもとに送られた歌である。心は、このように病気が重くなって、とても命はないであろうと思うので、この世にいないようになって、後の世で思い出の種に、今一度恋しいあなたに会いたいことであるなあ。何とぞ会いに来てくださいということである。思い出とは、以前に嬉しいことなどがあったのを後に思い出して慰めることをいうのである。
【左丁】
めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな
これは女友達であった人に久しく会わずして、途中でちょっと行き会ったが、七月十日頃で月が昇らぬ頃に帰ってしまったので、名残惜しく思って詠まれた歌である。心は、あまり久しぶりに出会ったので、見忘れてその人かその人でないかと、はっきりとわからないうちに別れて帰ってしまったので、ちょうど夜中の月のように雲に隠れたようで、名残惜しいことであるなあと、その人を月に例えて詠まれた歌である。
英語訳
【Right Page】
Since I will not be in this world, may we meet once more as a memory for the world beyond.
This is a poem sent to someone with whom she had exchanged vows when she was suffering from illness. The meaning is: Since my illness has become so severe and I think my life will surely end, I will no longer be in this world, so as a memory for the afterlife, I want to meet you, my beloved, just one more time. Please come to see me. "Memory" refers to recalling happy events from the past to find comfort.
【Left Page】
Meeting by chance, before I could tell if it was really you, you disappeared like the midnight moon hidden by clouds.
This is a poem composed when she briefly encountered on the road a female friend she had not seen for a long time, but who returned around the 10th of the seventh month when the moon had not yet risen, leaving her feeling wistful. The meaning is: Since we met after such a long time, I forgot how you looked and couldn't clearly tell whether it was you or not before we parted and you went home, just like the midnight moon hidden by clouds - how wistful! This poem compares that person to the moon.