翻刻
【右丁】
諸共に 山櫻 しる人もなし
哀と思へ 花より外に
是は吉野のおくに大峯にまゐり給ひしとき
四月ごろにてもはやいづかたの花ももちりはて 前大
た■とに思ひもよらずかやうにみつ■
たることなればなつかしい花よと我にはおもふ 僧
ほどにそちも我とおなじやうにはなつかし
い人よとおとへ山ざくらよかやうなおく山で
何一つ見なれたものはなく■とからのちかづきの 上
といふはそちばかりぞと也めづらしく花を 行
見給ひしる人にあひしやうに思ひ給て 尊
花
【左丁】
夢ばかりなる 名こそ
春の夜の 立む
手枕にかひなく をしけれ
二月ごろ月のさえたる夜二条院といふ御殿に
女坊たちあつまりてものがたりさせらける時 周
周防の内侍■のによかゝりて手枕があればよいにと
しのびやうにいはれしをきゝて大納言忠家卿と 防
申人がこれをまくらにし給へとてかいなをみす
の下よりさしいれければよまれし哥也心は
此春の■■■■■夢の間ほどちよつとの手
枕をしてそこに逢うことでもなきに何のかひ 内
もなくこれでたてられるうき名がをしき
ことぞと也かhなくといふにかひなを■■■ 侍
てよまれし也かひなとは手のひぢといふ