翻刻
和田(わた)。多賀(たが)。新蒲(しんかば)。中野(なかの)。小山(こやま)。和田木(わたき)《割書:是より網代港に|至る岐路あり》宇佐美(うさみ)。を経(へ)て
至る小富士山(こふじさん)《割書:江浦伊豆山日金山等より之|を望めば其景尤もよろし》亭子島等(ていしじまとう)の勝景(せうけい)あり
《割書:此島に洞あり昔源頼朝家和田胤長に命して其洞源を探らしむ|るに遂にに其奥を窮むること能はさりし由東鑑に見へたり》又|温泉(おんせん)
湧出(ゆしゆつ)して浴客(よくかく)頗(すこぶ)る多(おほ)し《割書:温泉の側に寺あり寺中に古|池あり怪魚を産すと云ふ》
○湯瓦原村(ゆがはらむら)また磯山(いそやま)の里(さと)と称(せう)せしことわり然(しか)るに今(いま)は両(れう)
名(めい)皆(みな)称(せう)せず《割書:今を距る三百五十年前まで湯瓦原村の称ありしこと永|正十八年湯前神社造営の棟札に依て知らる此札今富士》
《割書:屋喜右衛門の|所蔵に係る》単(たん)に熱海村(あたみむら)と称(せう)し和田(わた)。水口(みのくち)。二村(ふたむら)を属里(ぞくり)とす是(これ)
即(すなは)ち温泉(おんせん)湧出(ゆしゆつ)の本里(ほんり)なり街区(まち)十一に分(わか)つ本町(ほんてう)。中町(なかてう)。浜町(はまてう)新(しん)
宿(しゆく)。荒宿(あらじゆく)。横町(よこてう)。東(ひがし)。坂町(さかてう)。小澤(こさわ)。崎見町(さきみてう)。上宿(かみしゆく)。野中(のなか)これなり《割書:此|他》
《割書:横磯。比良。池田。藤澤。大久保等の小|名あり都て五十三区にわかてり》和田村(わたむら)《割書:また片平の|里と称す》は本里(ほんり)の南(みなみ)七
八町|念佛山(ねんぶつやま)の麓(ふもと)にあり民戸(みんこ)凡(およそ)六十|餘(よ)農夫(のうふ)漁者(ぎょしゃ)雑居(ざっきょ)せり其(その)
西北五六町|入山(いりやま)に傍(そ)ふて人家(じんか)凡(およ)そ十三四戸あるを水口村(みのくちむら)
とす人民(じんみん)みな耕樵(こうせう)を兼(か)ぬ而(しか)して本里(ほんり)は民戸(みんこ)凡(およ)そ三百七八
十戸|農工商賈(のうこうせうか)漁夫(ぎょふ)樵者(せうしゃ)軒(のき)を聯(つら)ねて雑居(ざっきょ)し警察(けいさつ)分署(ぶんしょ)あり電(でん)
信局(しんきょく)あり郵便局(ゆうびんきょく)あり通運(つううん)會社(くわいしゃ)の分店(ぶんてん)あり毎月(まいげつ)数回(すくわい)東京(とうけう)沼(ぬま)
津(つ)の間(あひた)を往復(おうふく)する汽船(きせん)の寄港(きこう)するあり屠牛場(とぎゅうば)あり洋食店(ようしょくてん)
あり玉突場(たまつきば)あり楊弓店(やうきうてん)あり大弓場(たいきうば)あり稍(や)や小都会(せうとくわい)の躰裁(ていさい)
をなせり
○温泉(おんせん)
温泉(おんせん)湧出(ゆしゆつ)の来歴(らいれき) 古来(こらい)諸説(しょせつ)紛々(ふん〳〵)而して概(おほむ)ね皆(みな)荒唐(こうたう)に属(ぞく)す
里|俗相(ぞくあい)傳(つた)ふ仁賢天皇(にんけんてんわう)の四年(よねん)蚊島(かしま)穂允君(ほべのきみ)罪(つみ)ありて獄死(ごくし)す然(しか)
れとも逆鱗(げきりん)なほ未(いま)だ止(や)ます其(その)屍(かばね)を豆州(づしう)熱海(あたみ)の海底(かいてい)に沈(しづ)め