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コレクション: STAGE1

熱海獨案内 全 - 翻刻

熱海獨案内 全 - ページ 30

ページ: 30

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此邊(このへん)すべて古々井(こゝゐ)の森(もり)と称(せう)し時鳥(ほとヽぎす)の古歌(こか)多(おほ)し其(そ)の一二を 録(しる)さば拾遺集(しういしゅう)に清原(きよはら)元輔(もとすけ)の歌(うた)とて「思(おも)ひやるこゝゐの森(もり)の 雫(しづく)にはよそなる人(ひと)の袖(そで)もぬれけり」とあり後拾遺集(ごしういしう)に藤原(ふじはら) 兼房(かねふさ)が「五月(さつき)闇(やみ)こゝゐの森(もり)のほとゝぎす人(ひと)しれずのみ鳴(なき)わ たるかな」同(おな)じく大貮(だいに)の三位(さんみ)が返(かへ)しに「時鳥(ほとゝぎす)こヽゐの森(もり)に鳴(な) くこゑを聞(きく)よそ人(ひと)の袖(そで)もぬれけり」扶木集(ふぼくしう)に惠慶(ゑけう)法師(はふし)の「人(ひと) の親(おや)のおもふ心(こヽろ)やいかならんここゐの森(もり)の秋(あき)の夕暮(ゆうぐれ)」等(とう)な り社前(しゃぜん)の石階(いしだん)を下(くだ)ること数(す)百|級(きう)にして海岸(かいがん)に出(いづ)れば温泉(おんせん) あり即(すなは)ち走湯(はしりゆ)なり又(また)古歌(こか)多(おほ)し江島屋(えじまや)相模屋(さがみや)等(とう)の湯戸(ゆこ)三四 軒(けん)みな浴室(よくしつ)に温泉(おんせん)の小瀑(こだき)を設(もふ)く清爽(せいそう)浴(よく)すべし此地(このち)熱海村(あたみむら) を去(さ)る東北(とうほく)十八|町(てう)即(すなは)ち小田原驛(おだはらゑき)の街道(かいだう)にあたる近時(きんじ)神社(じんじや) の傍(かたはら)眺望(てうぼう)佳絶(かぜつ)にして稍(やゝ)平坦(へいたん)なる處(ところ)を卜(ぼく)して東京(とうけう)の或(ある)有志(ゆうし) の人(ひと)一(いつ)の遊園(ゆうえん)を開墾(かいこん)せり又(また)社壇(しゃだん)正面(しやうめん)の北鳴澤(きたなるさは)の瀧(たき)に沿(そふ)て 車道(しゃどう)を鑿拓(せんたく)し工事(かうじ)将(まさ)に成(な)らんとす最(もっとも)詣拝(さんけい)の便宜(べんぎ)に當(あた)りて 一大(いちだい)美事(びじ)と謂(い)ふ可(べし)し ○網代港(あじろみなと) 熱海村(あたみむら)の南海路(みなみかいろ)二|里(り)また多賀村(たがむら)を経(へ)て陸行(りくこう)す べし即(すなは)ち下田港(しもだみなと)に至(いた)るの街道(かいどう)なり然(しか)れども遊覧(ゆうらん)の客(かく)は舟(しう) 行(こう)を宜(よ)しとす舟路(ふなぢ)は則(すなは)ち錦浦(にしきうら)を囘(めぐ)り曽我浜(そがはま)を経(へ)て港(みなと)に達(たつ) す港(みなと)民戸(みんこ)四百|餘(よ)船舶(せんぱく)多(おほ)く繋(かゝ)る東南山(とうなんやま)を越(こへ)て根越(ねこえ)の観音堂(くわんおんだう) に至(いた)る曹洞宗(そうとうしう)長谷寺(てうこくじ)と称(せう)す門前(もんぜん)の観望(くわんぼう)また極(きは)めて奇絶(きぜつ)な り本尊(ほんぞん)《割書:大和豊山の本尊と同|木同作なりといふ》もと山下(やまのした)の巖窟(いわや)にあり時々(をり〳〵)暴潮(なみ)の 為(ため)に漂(たゞよ)はさる僧(そう)実参(じつさん)之(これ)を憂(うれ)ひ此寺(このてら)を創建(そうけん)して此(こゝ)に遷(うつ)せり