翻刻
かんに営(いと)なみ今(いま)なほ益々(ます〳〵)怠(おこ)たらざる者(もの)は遠州屋(ゑんしうや)庄右衛門(せうゑもん)。
丸屋(まるや)喜平(きへい)。福田屋(ふくだや)安二郎(やすじろう)等(とう)なりといふ各家(かくか)また轆轤製(ろくろせい)のも
の塗物(ぬりもの)類等(るいとう)を併(あは)せ売(う)る又(また)青木(あおき)および梛(なぎ)にて製(せい)したる箸(はし)数(すう)
種(しゅ)あり何(いづ)れも浴客(よくかく)滞在中(たいざいちう)の需(もとめ)に応(おふ)じ何様(いかよう)にも製(せい)すべし
○雁皮紙(がんびし) 地棉(ちめん)を用(もち)ひて之(これ)を抄(す)く地棉(ちめん)は和名(わめう)をカゴと云(い)
ひ俗(ぞく)にガンピと称(せう)す木(き)は桜(さくら)に似(に)て四月葉(しぐわつは)を生(せう)ず此木(このき)処々(しょ〳〵)
の山間(さんかん)に生(せう)すれとも十|年(ねん)を経(へ)ざれば用(よう)をなさず故(ゆへ)に三叉(みつまた)
楮を雑(まじ)へて之(これ)を抄(す)き唯(たゞ)薄葉(うすゑう)と称(せう)するものは純一(じゅんいつ)の地棉(ちめん)を
用(もち)ゆといふ熱海(あたみ)におゐて此紙(このかみ)を製(せい)し初(はじ)めたるは柴野(しばの)栗山(りつさん)
の創意(さうい)に出(い)で今井(いまい)半太夫(はんだいふ)《割書:箋齋また徳翁と|称せし人なり》此業(このげう)を起(おこ)し江戸本(えどほん)
町(てう)へ肆(みせ)を開(ひら)き又(また)金花堂(きんかどう)榛原(はいばら)等(とう)へ分(わか)ちて之(これ)を発売(はつばい)せり爾来(じらい)
この業(げう)を営(いとな)むもの漸(やうや)く多(おほ)く殊(こと)に方今(ほうこん)は今井(いまゐ)半太夫(はんだいふ)。渡辺(わたなべ)彦(ひこ)
左衛門(ざゑもん)。井上(ゐのうへ)彦八(ひこはち)。神角(かみかど)善吉(ぜんきち)。芥川(あくたがは)由五郎(よしごろう)等(とう)専(もつ)はら力(ちから)を此(こゝ)に尽(つく)
すといふ
○壁土(かべつち) 熱海(あたみ)の地(ち)山溪(さんけい)田園(でんゑん)到(いた)る処(ところ)往々(わう〳〵)この土(つち)を生(せう)ず青黄(せいおう)
赤白(しゃくひゃく)その他(た)の間色(かんしょく)凡そ十七|種(しゅ)ありみな壁(かべ)を塗(ぬ)りて美(うつく)しく
且(か)つ堅(かた)し中(なか)に就(つ)く金色(きんしょく)及(およ)び銀色(ぎんしょく)のものあり光彩(こうさい)燦爛(さんらん)宮室(きうしつ)
の美観(びくわん)を添(そ)ふに足(た)る年来(ねんらい)山田(やまだ)万吉(まんきち)《割書:吉田屋|と称す》といふもの此(この)土(つち)
を売(う)るを以て業(げう)となし常(つね)に東京(とうけう)その他(た)へ運輸(うんゆ)するもの甚(はなは)
だ夥多(おびたゞし)といふ○この他(た)赤石(せき〳〵)脂(し)《割書:薬用に供|すべし》○塩温石(しほおんじゃく)《割書:鉱泉中に|含む所の》
《割書:加爾基曹達等凝結して自|然に石の如くなりしもの》○煉瓦石(れんがせき)《割書:近年此業|を創む》○乾魚等(ほしうほとう)の売品(うりしな)あ
れとも其品(そのしな)少(すくなく)或(あるひ)は尋常(よのつね)のものなれは敢(あへ)て記(しる)さず