翻刻
なれは路用はもとより旅の空今より
此身を如何はせんと狼狽歎く人〳〵の
数をも知らぬ遠国他国さこそとおもひ
あはすれは拙き筆には記しかたし
爰に幸一か幸ひなるは出店なる梅笑堂
にて売上銭のありけれは杖柱とも持
出し貯置し事なれとも今更是を何
にかせん纔なれとも草鞋の料にもなし
給んと差出しても受とらす昨夜よりして
段〳〵お世話になりたるうへいつれの方か
見知なけれはお返しまをすに便りもなし
女わらはの恥かしく襦袢ひとつかひいきの
沙汰下帯さへなき此姿を嗜しらぬ女ゆゑ
かゝる始末と笑ひ給ふも理りなれと宿屋も
旅人の多けれは居風呂とてもはかとらす
旅行の労れ其侭にうちふしたるを
此騒動または翌日のつかれを案し起出て
湯に入りたるを其侭に打潰れて途方を
失ひ漸くたすかり遁れいてかゝる姿の
恥かしさと打伏歎く計りなりかゝる未