翻刻
介抱をうくるといへとも風を受日を受痛
強けれは親族の輩是に気をうばはれ
夜を日に続て千辛万苦たま〳〵夜喰の
残りたるを持出したる人もありて爰に
進めかしこに貰ひ得て手に取れとも
一ト箸たにも咽どに通せす口中にうる
ほひなく胸痛み疲れては水を呑よわりては
水を呑一昼夜を過せし今の時に到りては
大人小児の無差別目ぶち黒みたゞれ
ほうへたこけ衰ひ色青しといへとも青きに
あらす諺にいふ土け色とやらにして乱れたる
髪には土砂のほこりを頂き陰陽順逆の
所為にや朝頃よりむし暑くして頭重く
身持尤悪くして働きて疲るゝ事倍を
増し誰ありてか身の落着をしるものなし
未の刻より申の刻比まてに隣家まて
焼失して向ふ側に火移り下も町に
もい上り善左衛門家居向はのこりけるを
いかなる悪風悪火なるか昨夜よりして
其さまを見るに風は北へ吹まくりて