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家と云文武二道の侍有黒糸威の鎧きて卅六さしたる大中黒
の征矢を負三人張の塗こめ藤の弓持て鹿毛成駒に乗
たるか進み出て申けるは人の心と川の瀬は一夜に替る習也
覚悟の前にて候へ共可驚事にてなしかゝる時に命をおしみ
生んとすれは必す死す思切て一方打破り通るへしと諸軍勢
に下知をなし小林さして引て行破れ軍の習にて我先にと
足を乱して逃けれは跡より敵は群りて時の声を作り懸
しけくしたふて追懸る丹後守は是を見て斯ては不可叶某一人
踏止りて防矢を射て落し申さんと後陣遥に引下り彼政家
と申は近国に隠なき強弓の精兵矢継早の手利也大音上て
呼はるは爰に扣しは丹後守と言者也日頃音にも聞つらん
今近付て我をしれ矢先に敵は嫌ふましと指取引取射る程に死生
は不知廿八人射伏たり此勢ひに恐れをなし追て懸りし諸軍勢
しとろに成て勇えす漸引て行程に木崎原にも成ぬれは
忠平の御手一度に鬨を上にける伊藤【「東」の誤カ】勢は是を見て爰を
破られては叶ましとや思ひけん面もふらす責戦ふ未時を移
さんに川上三河守同助七大将にて物に馴たる究竟の兵を
五百余人引分とある木影に馳廻り義祐の旗本へ真しく
らに馳入縦横無尽に切て廻れは思寄さる伊東勢四方へばつと
散にける屋形の兵共勝に乗て前後ゟ引包み追伏〳〵打
捨る伊東に名有侍五百余人時刻を不移討れけり其外
恥をしらぬ雑兵共爰彼に追詰られ討るゝ者は数しらす