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兵有目と目をきつと見合こは無念の次第かな恒高壱人に切立
られ足をためす見くるしや鬼神にてもあらはあれ余すな
といふ儘に二人の者共真しくらに打てかゝるを恒高きつと見
て大勢の其中に方々の残り留るは類ひ少き兵哉いさや
勝負を決せんと二人を左右に相受て追つ巻つ戦けるか奥
野々藤太太刀を打折て怪む処をつと入て真向二ツ割に
そしたりける源次透さす丁度と打ひらりと逃【迦ヵ=外】しそふなく諸
膝なひて切落されかしこへとうと倒れける二人か首を打落し
太刀の先に貫き軍はかくこそする物よ掛れ〳〵と呼はりける
左右な近付そ遠矢にそ射たりける恒高も心は猛く勇め共
其身鉄石にあらされは数ケ所の疵を蒙りて遁んもの故に腹
一文字にかき切て朝の露と消にけるかの恒高か手柄のほと皆
感せぬものは無りけり
一去間野村備中守重綱は忍の者共都の郡に附置ける無程
馳来り稲津川崎大将にて福永館へ大勢取掛し由申
ける野村聞てとやせん角やあらましと案し煩居たりしか只
世の行末を見る時は今日は人の身の上明日は我か身の上そかし
迚も死すへき露の身を義理を守福永と共に腹をかき切
て死出の山路を諸共に手に手を取て打越て立反【たちかえる】も難面【つれなく】も
物語して慰んと我と思はんものあらは供して来れと云儘に
立出んとしたりしか実誠忘れたり妻や子共を残し置人手
に掛んも無念也差殺さんと思ひつゝ常の所に立帰り女