翻刻
○十月蛇穴に墊【蟄?】し。虹蔵(にしかくれ)て見えす。小児は紙鳶をあぐ
○十一月水仙。寒菊開き。杓杷(くこ)紅(くれない)に色づき蚯蚓音を出す。
其外にさせる事なし
○十二月。庚子庚午に当る日に逢ば。糯米の粉を椶(しゆろ)の
葉にて。三重四重に包み蒸篭にてむしたるを鬼餅
と名付て餉るなり。土人の説に。昔此国に鬼出たりし
時。此物を作て祭りしとなり。是其遺れる法なるよし。
駆儺(おにやらひ)。禳疫(やひやうよけ)【?】の意なるへし。二十四竈を送り。翌年正
月始て竈を迎ふ。《割書:竈の神を送り|迎ふるなり》
○元服(げんふく)
此国人。元服以前は髻を蛇のわだかまりたる如くにし長き
簪を下より上へ逆しまに串きて其先きは額にいたる
なり。既に成長(ひとゝなり)て冠(かむり)する時は。《割書:二十にして冠する|は通例なり》頂(いたゝき)の髪を剃
て髻を小さくし。短き簪にて留置なり唐土明の世には
髪を剃事なかりしが。清の冊封を受る世となりてより
の事なるよしなり。案るに芴【?】子坊主なるかはりに。中剃
と遁れたるなるべし
○剃髪(ていはつ)
医官を五宦正といひ。茶道坊主を。家叟といひ。また
御茶湯といふ。片帽を被(かふる)。黒き十徳のこときものを
着するとなり
○器財(きさひ)之説
食膳の為方。膳椀にいたるまで。惣て日本の制に効(なら)ふ
王宮の給(きう)仕は。里之子なり。二人宛揃への服を着し。
進退。小笠原流をもちゆ。はなはだ行儀よき事なるよし
なり
○女市
此国中辻山といふ所の海/沿(ばた)に。早晩(あさばん)両度市あり商人は
残らず女なり。商ふ所のものは魚蝦(きよるい)。蕃薯(さつまいも)。豆腐。木器。
磁碟(さらこはち)。陶器(やきもの)。木梳草靸(きぐしさうり わらじ)等の麤物なり其貨物。何に
よらず首に戴き。坡に登り嶺を下るに偏(かたよら)ず。売買は
日本の銭を用ゆ。古へは洪武通宝。永楽通宝唐土
より此地へ渡りて通用せしが。今ははなはたまれにし
て。只寛永通宝のみ多しとなり
○嚏(くさめ)を好む
琉球人は寿命の薬なりとて嚏する事を好む客