翻刻
羊躑躅(つゝじ)は殊に見事なり。元日王宮の花瓶に挿る。恒
例なるよし。蛇はじめて穴を出。始て電し。雷則ち声を
発す枇杷の実熟す。元朝これを食ふ。正三五九の四ヶ
月を国人吉月と名つけて。婦女海辺に出水神を拝
して福を祈ると。伝信録に載たり。
○二月十二日。家〳〵にて浚井し。女子は井の水を汲て。
額を洗ふ。如此すれば。疾病を免るゝとなり此月や。土
筆萌出。海棠。春菊。百合の花。満開し。蟋蟀(こほろき)鳴(なく)。
○三月上巳の節句とて徃来し。艾糕を作て餉る。石
竹。薔薇(ろうわはら)【?】罌粟。倶に花咲く。紫藤生じ。麦/秋(みの)り。虹始
て見ゆ
○四月させる事無し。鉄/線(せん)開き。笋出。蜩鳴き蚯蚓
出。螻蝈(けら)鳴き。芭蕉実を結ふ。国人是を甘露と名つく。
○五月端午。角黍を作り蒲酒を飲事日本の如し。
此月稲登る。吉日を選んて。稲の神を祭り。然うして
後。茢収むるとなり。明の夏子陽使録に云。国中に。女
王といふ神あり。国王の姉妹。世〳〵神の告に依て。
是に替る。五穀成時に及て。此神女所々を廻り
行穂を探てこれを嚼(かむ)。いまだ其女王の嘗ざる前に。
穫(かり)入たる稲を食ふ時は立所に命を失ふゆゑ。稲盗
人絶て無し。此月蓮の花咲。桃。石榴熟す
○六月の節句あり。《割書:六月の節句中に|当る日なるべし》強飯を蒸て送る。この
月也。沙魚(わにざめ)。岸に登りて鹿となり。鹿また暑を畏るゝ
故。海辺に出て水を咂(ふく)み。亦化して沙魚となる。桔梗。扶
桑花開く。
○七月十三日。門外に迎火の炬火を照らして先祖を迎
へ十五日の盆供など。日本と替りたる事なし此月。竜眼
肉実を結ぶ。
○八月十五夜。月を拝す。白露を八月の節句とし
赤飯を作て相/餉(をく)る其前後三日ヶ間。男女戸を閉て
業を休む。是を守天孫と号す。此間に角口(いさかひ)【?】などすれば
かならす蛇に囓るゝとなり木芙蓉花さく。
○九月梅花開き。霜始て降り。雷声を収め蛇はなはだ
害を為す。此月の蛇に傷(きず)つけらるれば。立どころに死す
故に。八月の守天孫に。三日が間つゝしむなり。田は惣く
墾(あ**)ばかし【?】。麦の種を下す《割書:麦は三月|実のる也》