翻刻
【右丁】
毎(たび)に種痘せしめよと強(しい)て勧(すゝ)むなり種痘中醫
の誤(あやま)り或は父母の杜撰(そまつ)より合併(かふへい)と言て種痘と
天痘と一時(いちじ)に発する事なり此痘を世人再痘と
言ふ再痘にわあらず合併/或(あるいは)兼痘(けんとう)と言ゑる症(たち)な
り再痘と言るものは種后十五日の経過(うんあわせ)恙(さわ)りな
く痂も落て后天痘に罹らば是れ全(まつ)く再痘なり
其症あることを未(いま)だ聞(き)かず知(し)らず醫(い)の不熟か
虚説(うそ)かよく〳〵吟味あるべし尚(なを)世人/何(いつれ)の説(いふこと)を聞(き)
き誤(あやま)りたるか小児/生(うま)るゝ其年は痘に感(かん)ぜぬも
のなどの空言を信じ種痘の訳(わけ)を信じながら種(うへ)
【左丁】
ずして流行痘を感じて死するを毎次(おり〳〵)見聞きせり
小児/生下(うまるゝ)四五十日を経(すぐ)れば種(うゆ)べし空言に迷ふ
べからす必らず予が億説(ひがこと)に非ず和蘭に於(おき)て此
の如き種法なる事/引痘諸書(うへぼうそうのほん)に見(みへ)たり痘を種て
真痘を得(ゑ)て十五六/若(もし)くは十七八日を過(すぎ)る迄(まで)は
天痘を恐るゝ事/疫癘(じゑき)を恐るゝ如くすべし其(その)体(からだ)
の痘を感(う)ける感受力(かんじゆりよく)と言るもの全(じゆう)く(ぶんに)脱(ぬ)けず
《割書:委しくは種痘|小言に見たり》天痘の毒気(どつき)は風につれ又は衣裳(きるい)に染(つき)
て五里十里の遠路(ゑんぱう)も飛ひ行きて人に伝染(うつる)もの
なり古人(こじん)も十五日を過るまでは合俗を恐るゝ