デジタルアーカイブ福井の資料を翻刻

コレクション: 松平文庫

温古集 四巻 - 翻刻

温古集 四巻 - ページ 91

ページ: 91

翻刻

【右項】  引籠り住居せしか自火にて家焼此琵琶一ッ抱て  出たりけるに道具は残りなく焼失てけり夫より  次第に貧しくなり後は小丹生浦刀祢茂兵衛が家にて  果ける也かく貧しく成て残りたる道具もみな  売代なしけるが此琵琶は無下之者の手に渡さむも  口惜とて山本簡齋に売てけり其時贈答之  連歌なと有とかや其頃三崎宗庵は琵琶を  好きて彼有賀か家栄へけるほとは常に行  所望して弾けりかくて年月をへて後簡齋  少し心地あしかりけるに宗庵を呼て縁を 【左項】  見て貰はんとて言い遣りけれは則宗庵来りて  座につくゟ外の事は得云わて彼琵琶の事を  噺出し今は何方に有やらん惜しき事也と云けれは  簡齋夫こそ我方に有とて取出して見せしかば  宗庵涙をなかし歓事かきりなし今一度此琵琶  を見まほしく思ひしにかく手にふるゝ事の不思議  さよとてかきならし平家をかたり出したりけれは  簡斎も同しくしわかれたる声にて語出し興に  入て良久しくかきならしけるかさらはとて暇  申て帰るとて終に宗庵は縁を伺ふ事をわすれ