翻刻
昔遥の山を越て往来せしを御郡奉行に黒川五左衛門と
いひし人此所を切抜往来安くありし也是迄は忠の
郷也是を境として木郎の郷恋路村也
此切通しを廻る時風与吉野川岩切通ふ
し行水の音にはたてし恋はす■■なと
いふたことを思ひ出しふし
冷敷きはいつの恋路や切通し
誠に此恋路村名にめてゝ風景類ひなし沖に弁才
天の小嶌あり菱尾波とて礒に菱形に浪寄する也
又左右の岩組岩根の塩かまの躰言語にも絶したる所
なりし其此恋路村に物語り有いつの頃にや有けん多田の
里に女あり茂九郎の里に男ありて夜々行通ひけん
其頃は道も砠敷なれは磯伝へなる浅瀬をたとりける
に月なき夜は女岩の端に篝火を焼て待しとなん
又男ありて我恋の仇なるを恨み有夜女をいましめ
篝火の所をかへて焼置けんやさ男此事をしらす渡
せしに磯の深みへ沈み死しけりとなん女も此事を
聞つゝ又身をなけ死せしより恋路村の名ありと