翻刻
先ツ此旨を届置中村と共に急船にて江戸へかへり崩家を
取除見るに《ルビ:哀|あハれ》むへし三千女ハ五体砕けて中〻一書を認
へき容ハなし唯〻父を思ふの一念《ルビ:凝塊|こりかたまり》右のことく取計
縁有人を待たるならん実に孝心の至と泪に筆を染て
記しはべる
一深川寺町辺ハ崩家尤多し伊勢屋某の倉三ケ所揺落し
土瓦ハ山のことし急に取片付んと思へとも今度の騒乱前代
未聞なるゆへ人夫等もなく五日の間捨置けれと往来も成かた
きゆへやう〳〵人をやとひ土瓦を取除させけるに一人の男を掘
出しけり各大におとろき是を引出しけるに暫有て此男
目をひらき辺を見廻し爰ハ何処なるそと云に皆〻弥あ
きれ夫より土中に有し体を尋るに土蔵の土の落て押伏られ
しまてハおほへあり其後の事をしらすといへり又長谷川町本所
のも同容のことありて是も恙なし凡此度の天変ニ付焼亡
等の非業幾万人といへる員をしらす是等ハ前世よりの応
報にして《ルビ:脱|のかれ》かたきもの也《ルビ:尓共|されと》右のことく土中に埋れて日数
をふれとも安体なるもの有是又善果の因縁にしていかなる
死地に入るとも生命を失ふことなし今眼前の証拠あり