翻刻
観一時に烟となりぬることをそも地震 祝融(ひのうみ)等の過日の
神何そ如此悪行をなすや予此春四方蔵の家名。堤。
山崎。太刀伊勢屋。堺屋。四ッを顕にて戯れに
淀ならぬ堤も春のたち伊勢屋としのさかひやかすむ山崎
とよめかしも今その家を見てその蔵なきを歎息すしかし
なから武蔵野の廣き御恵の露ハ民州の末葉までもらさず
潤し給へれバ再ひ普請成就して繁昌はじめに百倍す
へしといふ
一天地の変につれては人情もまた変る事ある歟此度大地
震の後再び大地震あらん事を懼れ大路に仮庵をつくり
それに住居するに囲ひおろそかにして彼天智帝の御製の如く
かりほの庵の苫あらくして夜露もり透間の風はだへを犯
し寐なから大空の星を望ミ常にハものすごく一夜も宿り
がたげなるを皆人よろこひ本宅の戸じまりよく潰れ傾きもせ
ぬ二階家などハ中々に物おそろしく誰も〳〵それに入て寐
るもの一人もなく幼子のわやくいひて泣いたつをしかりこらす調(ことハ)
にも左様に泣てハ此かり庵にハ置かたし本宅へつかハし寐かす
へしなどゝいへハいたく怖懼れて泣を止めぬる実二地震の