翻刻
末寺(まつじ)并 淨心寺(じやうしんじ)地中大ひ損ず是より寺町辺ハ只(たゞ)さへ最(いと)も物(もの)の匂(にほ)ひ悪臭(わるくさ)
く思ハるゝに犬猫(いぬねこ)の溺死骸流(できしがいなが)れ集(あつま)り肉腐(にくたゞ)れ水引(ミづひき)き日を経(ふ)るにしたがひて
臭気鼻(しうきはな)を穿(うが)ちしよしなり猿江浦辺大工町悉(さるえうらべだいくちやうこと〴〵)く大破し永代橋向ふ
佐賀(さが)町辺諸方そんじ仲町辺遊女屋 仮宅佐(かりたくさ)の槌屋(つちや)大の字屋大潰れその
外も壁(かべ)を抜(ぬき)屋根をこぼち家 傾(かたふ)き悉(こと〴〵)く大破す八幡宮境内相州江(はちまんぐうきやうないさうしうえ)の嶋(しま)
弁才天開帳場仮屋(べんざいてんかいちやうばかりや)并に奉納物見(ほうのうものミ)せもの小屋悉く倒(たふ)れまた流失(りうしつ)なす
弁才天 御厨子(をづし)ハ八幡宮の本殿(ほんでん)に移(うつ)し奉る境内(きやうない)の橋(はし)一ヶ所落流れる
新地 蛤(はまくり)町潰れ家多く木場土橋入船(きばどばしいりふね)丁 此辺高汐(このへんたかしほ)に流(なが)され風に潰れ
悉く大破す砂崎弁天境内掛茶屋(すさきべんてんきやうないかけぢやゝ)悉く吹(ふき)ちり大木(たいごく)の松倒(まつたふ)れる門(もん)
前(ぜん)の橋(はし)落て流れる川端(かハばた)の家悉く潰れ所々大破す
◯此頃何人の作(さく)にや風向のさまを口説(くどき)とやらんいへる唄(うた)に綴(つゞ)りたる
文句(もんく)の中(なか)に
「ふかきふかがハひらいちめんに。かぜとみづとになかるゝひとハ。くるしさが町(ちやう)たすける人(ひと)を。まつが丁(ちやう)とてもした丁に。しげるえだハミなふきをれ
て。いへのくづれハおほしま丁よ。うミのなか丁どばしハおちて。おもてやぐ
らやとぶうらやぐら。はなのくるわのべんてんさまも。こゝをおたびのかりたく
ずまひ。たまのかいちやうかひなきしまつ。ミづのふかさハ六尺(ろくしやく)やしき。はまるくびたけ
みをうちこんで。くらもすミかもきばざいもくも。なおいてわかれのはちまん
がねの。おともむじやうのつきだしんち。あとハすさきとながほりまいよ。
ながい寿命(じゆミやう)のかめひさ丁に。よハひかさねるまんねん丁も。ミだのじやうど
のにしなが丁。いくよばしとハありあけばしに。きゆるともしびへる油(あぶら)