翻刻
【右丁】
ちはかりの女房たち七八人なきさにそふ
ていはまをつたひあゆみきたりしありさ
ま雲のひんつら【鬢ずら】かすみのまゆひすいのかん
さしたまのやうらく【瓔珞】花をかさりしよそほ
ひ心もこと葉もをよはれすらうたく【可憐でいじらしく】う
つくしうみえけるか安彦を見たまひ大に
おとろきのたまふやうそも〳〵こゝはほう
らいの山とてはるかに人けんをへたてた
るしやう〳〵【しょうじょう(清浄)】の仙境(せんきやう)なれはたやすく人のか
よふへきところならすなんちいかなる
【左丁】
ものなれは是まてはきたりけるやらんと
のたまふ安彦うけたまはりかうへを地につけ
手をあはせて申すやうそれかしは是より
大日本紀伊の国 名草(なくさ)のこほりにすまゐして
うらへ【浦辺】にふねにさほさしてたまもをひ
ろひいそ菜(な)【磯にあって食用になる海藻】をとり又つりさほをたつさへ
て魚をとりて世をわたるいやしきあまの
たくひなりしかるに我一えう【葉=小舟を数えるのに用いる】のふねに棹(さほ)
さして沖に出て魚をとらんとせしところ
ににはかに大風吹おちて波にをくられ風