翻刻
ざるに産気(さんけ)付とて早(はや)まり用ひ一両日も産(さん)延引すれは薬(くすり)は大 便(べん)より下て
効なしよつてさんぜんに用ゆる的(めあて)あり下腹(しもばら)刺痛(さしいた)み腰(こし)に引 乍(たちまち)痛み乍チやみ
破水(みつはり)下り小便 頻(しきり)にはやくなるなり此時男子 新(あらた)に水を汲(くみ)少し温(あたゝ)め丸薬
を含(ふく)ませ此 湯(ゆ)にて丸 呑(のみ)に服用(もちひ)さすべし丸薬 取り扱(とりあつか)ひ湯を与(あたへ)る迄(まで)女の手を
触(ふる)るべからず男(をとこ)の手(て)にて致(いた)すべし▲第一 孕婦(はらみをんな)の常(つね)に心得(こゝろへ)あるべきは時の
変(へん)により異形(いぎやう)の子をうみ或はいろ〳〵の難産(なんざん)ありといへども此丸薬を用
咽(のんど)さへ通(とふ)したる者ならば身二ツにならすといふ事なし胎内(はらのうち)にて死(しゝ)たる
子は子胎腐化(このたいくされとか)し下るといふとも母(はゝ)の命(いのち)にさはる事なししかしかほどの難産(なんざん)
なれば万に一 死(し)はなしといふにあらず若此丸薬服用して出 産(さん)ふきもの
決(けつし)て治せず▲此丸薬の玄妙(めう)なる事はさんけ付て五七日十四五日も身二ツにならず
諸医(もろ〳〵のい)の療治(りやうじ)手を尽(つく)すといへども験(しるし)なくいかんとも仕方(しかた)なき時此一丸を用ひ
て安産(あんさん)する事《振り仮名:■の生る|ひつじのこをうむ》がごとし▲双子(さうし)とて一 腹(はら)に二人はらむ事あり始(はじめ)の
一 粒(りう)を用ひ壱人安産あらば跡(あと)より又い一粒を用ゆべし若三人あらば亦
一粒を用ひて平産すべし▲小さんにも用ひてよしさんぜんニ用ひて十十分の効
あり産後に用ひて六七分の効あり産前に丸薬 失念(しつねん)して不 ̄ル_レ用 婦(をんな)は産後(さんご)
用ゆべし諸症(しよしやう)ありといへども保養(ほやう)をさへ慎(つゝし)めば萬に一をも失(うしな)わず
右之丸薬予代々用ひ来り其効(しるし)を得(え)る事 皆(みな)人知(ひとし)れる所なり○婦人(ふじん)用ゆる
丸薬なるに女の手を触(ふれ)ざる事(こと)是(これ)秘事(ひじ)なり製薬(くすりこしらへ)の時だにもかならず先(まづ)
斎戒(ものいみ)沐浴(ゆあみ)して虔(うや〳〵しく)心(こゝろ)に発願普済(あまねくすくふことをねがひ)然後(そのゝち)一静室(ひとつのしづかなるいへ)を択(ゑら)み曳注連如法(しめをひきほうのごとく)調合(てうがう)
し産婦あれば与(あた)へ連年(とし〳〵)応験(しるし)ある事 数(かず)へがたし一日(あるひ)近郷(きんがう)の医師(いし)来(きた)るニ
さとして曰かくのごとくの秘方(ひほう)たりといへども願(ねが)はくは他国(たこく)に流布(るふ)せば
難産(なんざん)の婦命を助る事誠に仁術なるべしといさめに随ひ世人をすくわん
がため世に広め諸人の望を叶べきもの也
紫陽長崎之郷椛島
調合所 《割書:古町|》久田道節 【印】
天明六丙午二月穀旦
此丸薬 予(よ)が父 道節(どうせつ)年久(としひさ)しく施薬(せやく)同前(どうぜん)ニ
して与(あた)へ来(きた)り諸国(しよこく)におひても難産(なんざん)の婦(をんな)をすく
ひたる事かぞへがたし此事(このこと)を聞伝(きゝつた)へ則 椛嶋(かばしま)
古町医(ふるまちのゐ)道節(どうせつ)の《振り仮名:伝■|でんじゆ》なりと偽(いつわ)り売買(ばい〳〵)いたす
風聞(ふうぶん)もあり又 類家(るいけ)の調合(てうがう)も有之(これある)ゆへ此度(このたび)価(ね)を
極(きは)め売弘(うりひろ)め候ニ付 本家(ほんけ)調合所(てうがうどころ)の名印(なゐん)所書(ところかき)能々(よく〳〵)
御 改(あらた)めの上御 求(もと)めなさるべし
椛嶋古町医
久田道節
本家
嗣子相伝 《割書:手水をつかひ|取扱ひなさるべし》
【印】
《割書:産前|産後》神霊一粒丸
経験捷方 《割書:女の手に触る事|御無用》