翻刻
文屋朝康
白露に
露ニ風ノ吹シケハ元つなきとめす散躰也風なきニさへ也風はつよく露は
ふかくなりまとまらぬ也つらぬきとむる物あり共風は心をとめよと也
古今ニモ義なしと云哥に心をとむる物そ
右近
忘らるゝ
千々の社ヲ引カケテナト誓タルヤウナル事也是ハ我忘るゝ事ハさてをきてちか
ことをして契タルニ誓言の上をたかへタルハ却而其人ノ命カ思ハレテ惜キソト云心也
かやうに云中ニモ命たにあらは又逢事もあらんニト云哥也 源氏にも千々の社モ
くちなれ給ぬらんと云心也
参議等
浅ちふの
篠原にをく露ハ何と忍はんとスレ共見ユル物なるニよりて只我恋もその如
につゝむとすれ共目ニモあまりてみゆるそと也 我心に忍ふと知たらはなと心に
あまりては恋しきそ也 なとかのかの字に心を付て見へし
定家卿なをさりのをのゝ浅ち―― なとか人の恋しきを本歌にしてヨメル也
平兼盛
忍ふれと
涯分我は忍ふと思ひシカ物ヲ思かと人のとひしにおとろきてさては物を思ふと
みえたるよと驚たる也 物や思ふと人の目ニ立タルヨト忍むねに刃をかけたる也
忍の字心《割書:ムねに|》刃《割書:ヤイバス|》 堪忍ノ心也
壬生忠見
恋すてふ
天徳哥合ニ前哥ニつかひたる也人知ず忍ひたると思ひしかはやく我名のたつ
やうは人かはや知たるかと也つゝむとすれと隠なくみゆる物そと也
後撰より拾遺にはよき哥あり 哥合のつかひに入たる也同つかひに是かすくれタル
也ちとも色にはみえぬか世には沙汰する名か立也またきははやく也我心より
もるゝことは有ましきか也 思ひそめしか こそに一ツかの字有也一ツハかの字ヲ
をかぬ也
清原元輔
ちきりきな
《割書:右【古か】|》君をゝきてあたし心を我もたは末の松山波もこえなん 男女によみたる
哥也此哥は夫婦かはるましき―【左に「如下」】 たとへかはるとも松の梢を波の《割書:こす|事》