翻刻
時鳥
暁聞郭公と云題也待〳〵ていく夜もつれなくて過しか只一声なきたる
跡をしたひて出てみれは只有明の月はかり残りて郭公は跡もなき也
■■■一声は夢ニまきれし時鳥遠さかるねをさたかにそ聞《割書:是も名残を|云たる哥也》
残月満_二屋樑 ̄ニ_一猶疑 ̄フ見_二顔色_一 李白ヲ杜子美【=杜甫】夢ニ見て名残【=形見】を作タル詩也【「夢李白」(字句異同有り)】
道因法師
思ひわひ
さても〳〵命はつれなき物也人の憂ニモまけす涙は落なり【落るかヵ】 命はさてつれなく
人のうきにもかつそと也涙はまけてこほるゝか命はなからへてあれはかつそと也
逍遥【=逍遥院】 我身より外の物なる涙かな 心をしらはなとこほるらん
皇太后宮大夫俊成
世の中よ
是は只うき世かいとはしさに山の奥へ引【右横に「コモラント思へ共ナルヘシ」】こもれ共又山の奥にも物侘しく
鹿かなけはそこも隠家に定めかねて兎角世中をのかれてゆかんみちは
なきそと也塵中にゐてもはうき世にゐる事也とかく思ひ入へキ山の奥《割書:モナシ|ト也》
藤原清輔朝臣
なからへは
次第〳〵に昔を忍ふほとに今のうきと思ふ時代をも又是より後には忍
はんするかとの心也 万人の心ニ観せん哥也一栄一落ト頼ム物也所詮行
末とてもたのみなしと也下句にて答タル也いひつめたる哥なれ共余情ある也
【本首説明の上部欄外に、以下の注あり】
此引■■■■是書ニス
唐太宗時奉
倫カ天下ハ二度
立直スマシキト
云タルヲ魏徴
カイヤ天下ハ
二度治ラント
云テ遂ニ治ル也
恨魏徴奉倫
不相並ぶコトヲ
俊恵法師
よもすから
物思ふ頃の明かたき也人こそあらめ閨のひまさへ明かたくつれなき也いかにし
たる事そと也是は物思ふ頃の物なるそと也 人はツレナキ程ニ待身テもなしされ
は打とけてねられもせす仍閨ノヒマモツレナキ也 須万【須磨】の巻につらからぬ物なく
なんといへり 頃と云字にていく夜も〳〵といひたる心か知レタリ さへの字感アリ
月前恋 西行法師
なけヽとて
月の我に物を思へとの事ニテモナキニ月に対して涙ヲ落スハ月をかこち
かほなると我なからは【恥】つる也 対月明莫思往事損君顔色減君年 【白居易「贈内」語順異同有り】
楽天か送内詩也 よくかよひたる歌と也 人の心持也人の本心たに不動はかや
うにみるましき也 外よりは不来者也 月ニは只の物さへかなしき【左に見消「:」】きにと云也