翻刻
寂蓮法師
むら雨の
いかにも深山の躰也霧の立のほる躰は村雨の露もまたひぬ霧ののほる躰
面白との心也 一義ニ槇の葉ニ時雨ふり其跡ニ露をき又其跡に霧か立
のほりたるといひたる也東ノ常縁は深山ノ一段奥に心ヲなしてミヨトと云シト也晴レ
はつり残テふらんトテハ又のほる也手のつかぬ哥也雨ニ露をよむは今は非也
雫也是も雫ナレ共露ノ如ク也
皇嘉門院別当《割書:別当は女別当也|其御所ニテ物ヲ司トル人也》
難波江の
是は身を盡しても又逢たきと也難波ニ澪標と云物始リタリ旅宿ニテ一
夜ノ契忘カタキ様也 《割書:トマルヘキ身ニテモナシ同行セン人ニテモナケレハト云心也|》
式子内親王
玉のをよ
命なからへは忍ふ事もよはりて名のたたんほとにそのさきにたへよと玉のをに
いひかけたる也こらへ(堪ゑ)【「こらへ」の各字左に見消「:」】性ノアル時命絶ヨト也 難逢恋は命を軽んする也
忍恋は同心にあらはとよむ物也世を憚て互に心はかはしなから也
もやせんとよまん哥也もそすると治定したるか一段也玉ノ緒《割書:コヽコニテハ|命也》
殷富門院大輔
みせはやな
海士の袖はいつもぬれてあれとも色はかはらぬか我袖は紅涙に色もかはりたる程
にそ此を人にみせたきと也人とはむかひをさして也 をしま二にわたる時は
清カヨキ也【注】海士の袖はめくり塩くみぬるる物也され共色ニハそめぬか我袖ハ涙
の紅にて色かわりたると也四ノ句にてきる哥也たにと云にて恋の哥になる事
多き也 涙の紅の計は舜ノ后娥皇女英より起ル也 大和物語ニモアリ伊語【 コマ20にも】
にいまのおきなまさにしなんや
後京極摂政前太政大臣
きり〳〵す
霜夜のさ筵に衣かたしき独ねんかと也蛬の鳴霜夜の侘しき折から
をよひたる也 新古ニハ秋ニ入立ニ非ス 天然ノ宝玉也古語テ天然也新涼
ノ時分ノそゝろさむきさへあらんニ蛩ノ声ニサテ独ねんかと也毛詩ニ九月ニ
蟋蟀入_二我床下_一トアリ人丸の山鳥のおのしたり尾と云ニおとるましきと也
二条院讃岐
【注: 小嶋とはかり云時は嶋を濁る。松嶋や小嶋と二にわたる時は嶋を二なから清てよむ也。(幽斎抄)】