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コレクション: 松平文庫

温古集 五巻 - 翻刻

温古集 五巻 - ページ 104

ページ: 104

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【右丁上段】 〇前田大書記官金沢に於ての演説 前号の続 今諸君の質問中或  は実業 疎きものは/勉強(べんきやう) 注意を諭すに苦しまるゝと云ふ説あ  り一理なきにあらすと雖/索(もと)より事業の/熟否(じゆくひ)によるにあらすして  /勤倹(きんけん)の事皆注意すへしとの謂にあり/仮令(たとへ)は養蚕事業の如きに於  るも桑苗仕立と云ひ移植と云原紙/精撰(せいせん)と云飼育改良と云ひ其注  意すへき/要点(ようてん)一にして足らす之独り養蚕の事業のみならす百般  のこと皆然り故に苟も事業の何たるを問はす勉強上に注意の/欠(か)く  へからさるを要旨とする謂也■倹納のことを云へは/漫(みた)りに衣食住  に/節略(せつりやく)を加へ反て/吝嗇(りんしよく于)に陥り或は金を懐にし空于徒然姑息の所  業あるは余か決して望む処にあらす故に興すへきの事業は之を  興す企つ可きの事は之を始むへし然れとも/冠婚葬祭(くわんこんそうさい)を/営(いとな)むに  当り多年の風習/冗費(じやうひ)を/浪費(ろうひ)すること甚多し今や之を矯正せは因て  得る所のもの甚多き■至るべし是れ之れ等を指して節倹の注意  と云ふへきなり又美濃紙に交ふるに半紙を以てし/絹(きぬ)を/変(へん)して/木(も)  /綿(めん)となす等其/需用(じゆよう)を節せは供給者益/困難(こんなん)を極むるとの説是れ又  余か取らさる処なり如何となれは已に供給者需用の乏しきに困  まは弥/競(きそ)ふて勤勉に注意せさるへからす何そ他を顧るに/暇(いとま)あら  んや假令は彼の細民の製する/草鞋(わらじ)の如きを見よ其の/稾(わら)の打ち方 【右丁下段】  /紐(ひも)の附方等に少く注意せは人皆な之れを/需(もと)むるに至るや必せり  諸君人民を/鼓舞(こぶ)/誘導(ゆうど)□/僅(わづ)かに弐厘六毛の注意をせば其の生する  処の利益三ケ年にして実に壱億弐千万円の国力を増進するに至  る注意の功実に至大ならすや又た金融/滑(なめら)かならされは事業おこ  らす事業起らされば勤勉をなす能はすと云ふか如きはそもゝゝ  も三要点の趣意にあらす元来勤勉は資本ありて生するにあらす  勤勉に因て始て資本を生するものなり勤勉の注意たるや何そ金  融の滑と不滑に■せんや假令は/爰(こゝ)に一反歩の地所あり/耕耘(こううん)■に  /拠(よ)りて改むること能はされは/収獲(しゆくわく)の減するあるも又増加を見るな  し今や勤勉に注意し/撰種(せんしゆ)/移植(ゐしよく)耕耘肥料等に/怠(おこた)らすして改良に吝  ならざれは/幾分(いくぶん)の収獲を増す正に/疑(うたがひ)を入るへからす之れ則ち  注意の/結果(けつくわ)なり敢て資金を要するにあらす又我国の桑樹は/悉(こと〴〵)  く病桑といひしは即ち桑の初年に在ては無病のものと雖とも次  年より之を/切断(せつだん)するに/際(さい)し其方法宜しきを得す加ふるに肥料と  いひ/培養(ばいよう)といひ一ツも完全なるものなし為めに/純桑(じゆんそう)の名を下す  を得す是を以て皆病あるものと称す之れ独り桑のみならす千百  の事皆然らさるはなし又質問中/偶々(たま〳〵)信用云々の言あり已に維新  前に於ては各其業により藩■の保護を受け自ら商法の/規律(きりつ)あり 【左丁上段】 左之ケ条ハ九月四日之処疎漏ニ而前後ニ成 〇前田大書記官金沢に於ての演説     前号の続き  古来凶歉の/臻(いた)る三十年/乃至(ないし)五十年にあり今や天保度の凶年を去  る正に五十年とす而て春来気候甚た/順(じゆん)ならず既に畿内九州等に  於ては水害を被り/懸念(けんねん)/措(お)く能はす夫れ昔日の凶歉たる/穀(こく)を/購(あがな)ふ  の金ありと/雖(いへ)ども売るべきものなきを以て其の/惨状(さんじやう)云ふに忍び  ざるものあり既に天保の凶歉にあつては本邦ニ三億万円の金な  りと雖とも一粒の食物を購ふ能はず金を懐にして/餓死(がし)せりと今  日は然らず一片の電報以て食を海外に購ふべけれは/假令(たとひ)不幸の  凶歉の来るも昔日の如く/餓莩(がう)路に横るの/惨状(さんじやう)はなきに似たりと  雖ども之を購ふの金に至ては亦た如何ともする能はす然らば外  債を/募(つの)らんか相当の/抵当(ていとう)なかる可らず今日/衰頽(すいたい)の極其の抵当と  なすべきものは唯土地あるのみ若し弁辞意の如くならすんは国  土挙て外人の有に帰し吾人は遂に外人の/奴隷(どれい)となるべし而して  彼れ其の得る所の金は/悉(こと〴〵)く其本国に/輸送(ゆそう)するを以て遂に云ふ  べからざるの/困難(こんなん)に/陥(おちゐ)るへし実に/危急(ききう)存亡の秋にあらずや  今明治十八年十九年廿年の三ケ年は維新已来既に/肥料(ひりやう)を加へ今  日/収獲(しうくわく)を得べき年ならずや其の肥料とは何ぞや曰く前に/述(のべ)たる  如く政府等に費したる/巨額(きよがく)の/資本(しほん)と及び有志の/膏血(こうけつ)是れなり請 【左丁下段】  ■              ■より頓に信用を失し遂に今  日に至る故に政府に於ては大に茲に/憂慮(ゆうりよ)せられ早晩商法規律を  発布せらるへきを信す然らは即ち信用回復するも亦或は難きに  あらさるへし諸君みるへし之れ此表は外国の国力を/増盛(ぞうせい)する十  年間の統計なり千八百七十一年より千八百八十年に至る十年間  に於て英国は三十二億一千万円仏国は十四億七千五百万円独逸  は三十六億二千五百万円の/巨額(きよがく)を増加するに至れり実に/驚(おどろ)くへ  きの歩ならすや此れ何によつて然るか唯該国人民注意の一点に  外ならす而して我国を/顧(かへり)みれは年一年に衰頽を来す是れ不注意  といはんか/無精神(むせいしん)といはんか斯の如きの景況も顧みす世人口を  開けは文明といひ開化といふ実に/慙愧(ざんき)も甚しいまや我々は諸君  も共に/必至(ひつし)/勉強(べんきやう)すへき時期といふはさるを得す今日之れか改良  をなす唯三要点の注意あるのみ又た前にも述ふる如く三要点は  決して金融や資本に拠らすして却て資本も金融も此三/要点(ようてん)に支  配さるゝといふへきなり彼の豪商鴻池と云三井と云ひ其祖先は  決して資本によらす総て一到の精神此三要点の注意に外ならす  且つ旧米澤鷹山侯の如きは僅かに五十両の資本を以て該地蚕業  今日の盛大を致せしなり旧各藩中に於て士族生計の/稍々(やゝ)全きを  得るものは独り該藩の一あるのみ之れ鷹山侯の/計画(けいくわく)宜しきを得  たるの報ひなり其注意願ふへし諸君亦/勉(つと)めざるへからす 畢